3行でいうと
- ファインチューニングは、できあがったAIに例を追加で学習させて、AI本体の振る舞いを変える方法です。
- プロンプトとRAGはAI本体を変えず、質問のたびに指示や資料を添えます。公式は、まずプロンプトから始めることを勧めています。
- OpenAIとMicrosoftは、最低10個、まず50個の例で試す目安を書いています。Googleは100個以上としています。
- 2026年10月8日時点で、OpenAIは新しい利用者に閉じ、Claude APIは提供せず、Gemini APIにも対応モデルがありません。
この記事は公式・一次資料を読んでまとめたものです。この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。RAGの仕組みそのものは、同じ連載の「RAG」の記事で扱っているので、ここでは違いを見るのに必要な範囲にとどめます。
先に結論
- ファインチューニングは、すでにできあがったAI(事前に大量の文章で学習したモデル)に、「こういう入力には、こういう出力」という例を追加で学習させて、AI本体の振る舞いを変える方法です。Anthropicの用語集は、追加のデータでさらに訓練して、そのデータの型や特徴をまねるようになる、と説明しています。
- プロンプトとRAGは、AI本体を変えません。質問のたびに、指示や例、資料を添えて渡す方法です。ファインチューニングは、AI本体のほうを変えます。
- 公式の文書は、まずプロンプトから始めることを勧めています。Googleは「プロンプトで最適なものを探してから、必要ならファインチューニングへ」と書いています。OpenAIも、プロンプトの工夫だけで十分な結果が出ることがある、と書いています。
- 2026年10月8日の時点で、ファインチューニングはどこでも使えるわけではありません。OpenAIは新しい利用者に閉じていて、Anthropicは通常のAPIで提供しておらず、GoogleのGemini APIでも使えるモデルがありません。詳しくは後で書きます。
たとえ話:新人に仕事を覚えてもらう
新しく入った社員に、お客様への返信メールを書いてもらうとします。
- プロンプト:毎回、「今回はこういう方針で、この例のような書き方で」と、メモを渡します。社員は変わりません。メモが良ければ、仕上がりも良くなります。
- RAG:メモに加えて、資料棚から、今回の件に関係するページを探して渡します。社員の頭の中は変わらず、手元の資料だけが増えます。
- ファインチューニング:研修を受けさせます。たくさんの返信例を読んで練習すると、メモがなくても、会社らしい書き方が身につきます。その代わり、研修には時間と費用がかかり、方針が変わったら、また研修が必要です。
この3つは、どれかを選ぶものではなく、組み合わせることもできます。
仕組みを、順番に
ファインチューニングで何をするか
OpenAIの公式ガイドの流れを、そのまま短くまとめます。
- 学習用のデータを集める。「入力」と「理想の出力」を1組にした例です。
- データを決まった形式(JSONLという、1行に1つの例を書く形式)にして、アップロードする。
- 「ファインチューニングのジョブ(訓練の作業)」を作って、訓練を始める。
- 訓練が終わったら、結果を評価する。
OpenAIのガイドによると、教師あり学習(SFT)では、最低でも10個の例が必要です。ただし、始めるときの目安としては、50個の質の高い例で試して、評価してから増やすのを勧めています。50〜100個で改善が見える場合がある、とも書かれていますが、必要な数は目的で変わります。
MicrosoftのAzureの文書も、同じく最低10個、まず50個から始めるのを勧めています。さらに、10個では見て分かるほどの効果は出にくいこと、質の低い例はかえって性能を下げることがある、と注意しています。
Googleの文書は、ファインチューニングが向くのは、100個以上のラベル付きデータ(入力と正解の組)があるときだと書いています。そして、データの質は量より大事だとも書いています。
何が良くなると書かれているか
OpenAIのガイドは、ファインチューニングの利点として、次を挙げています。
- 返答の形式をいつも同じにそろえやすい。
- 1回の質問に入りきらない数の例を、事前に学習させておける。
- 指示や例を短くできるので、トークン(AIが数える文章の単位)の費用を減らしやすく、返事が速くなる場合がある。
- 会社の機密データを、毎回の質問に含めなくても、訓練に使える。
- 特定の仕事に強い、小さくて安いモデルを作れる。
Googleの文書も、似た利点を挙げています。特定の仕事で質が上がること、独自の書式や専門分野のルールに合わせられること、結果が安定すること、プロンプトの例や長い指示を省けて、費用が下がることです。
向いている仕事
OpenAIは、教師あり学習が向く例として、分類(文章をいくつかの種類に分ける)、細かいニュアンスの翻訳、決まった形式での文章の生成、指示に従えない失敗の修正を挙げています。Googleは、分類、感情の分析、情報の抜き出し、複雑でない要約、を挙げています。
方法はひとつではない
OpenAIの現在の一覧には、教師あり学習のほかに、画像を使う学習、正解と不正解の組で学ぶ方法(DPO)、採点者の評価で強化する方法(RFT)があります。AWSのBedrockには、教師あり学習、強化学習によるもの、大きなモデルの知識を小さなモデルに移す「蒸留」があります。
また、Googleの文書は、モデルの一部だけを調整する「パラメータ効率のよい調整」と、全部を調整する「フルのファインチューニング」を紹介しています。後者は性能が上がる可能性がある一方で、計算の資源と費用がより多く必要、と書かれています。
3つの方法の違い(まとめ)
見立てです。上の公式の説明を、僕らが表にまとめました。公式がこの形の表を出しているわけではありません。
| プロンプト | RAG | ファインチューニング | |
|---|---|---|---|
| 何を変えるか | 質問に添える指示と例 | 質問に添える資料 | AI本体 |
| 効き方 | その質問だけ | その質問だけ | 以後の質問すべて |
| 新しい資料への対応 | 手で貼り替える | 資料を入れ替えれば反映 | 反映するには再訓練が必要になりうる |
| 準備 | 文章を書く | 資料を探せる仕組みを作る | 学習用の例を集めて訓練する |
| 公式の位置づけ | まずここから(OpenAI、Google) | 最新情報、専門知識、出典の明示に有用(Anthropic) | 専門分野、仕事、文体への適応に有用(Anthropic)。プロンプトで足りないときに |
Microsoftの文書は、ファインチューニングの課題として、良質で大量のデータが必要なこと、訓練と運用に追加の費用がかかること、データが更新されたり、土台のモデルが新しくなったりすると、やり直しが必要になりうること、を挙げています。同じ文書は、ファインチューニングと検索を組み合わせると、外部の知識をうまく使えるようになる、とも書いています。つまり、公式は両者を「対立するもの」ではなく「組み合わせられるもの」として書いています。
ふだんのチャットでは、何が起きているのか
ChatGPTのGPTs(自分用に作るAI)や、ClaudeのProjectsには、「指示」と「ファイル(知識)」を入れる場所があります。公式のヘルプを読んだ範囲で言えるのは、次のことです。
- OpenAIのヘルプは、指示は「GPTがどう振る舞うか」を決めるもの、知識は「会話の中で使う元の資料」で、「知識は規則や振る舞いのためではなく、参考資料のために使う」と書いています。ファイルは最大20個、1つ512MBまで、と書かれています。
- AnthropicのProjectsのヘルプは、指示は「そのプロジェクトのすべてのチャットで使われる」もの、知識は「チャットの文脈として使う」もの、と書いています。有料プランでは、知識が上限に近づくと、自動でRAGのモードに切り替わります。
どちらのヘルプも、これらがAI本体を訓練し直す機能なのかどうかには触れていません。ヘルプの説明は、指示と資料を会話に添える形で書かれています。見立てです。ふだんのチャットで「自分向けに設定した」と感じる機能は、ファインチューニングとは別の、プロンプトとRAGに近い仕組みだと考えています。ただし、内部の作りは公式の文書では確かめられていません。
現在の提供状況(2026年10月8日確認)
| 会社 | ファインチューニングの扱い | 確認元 |
|---|---|---|
| OpenAI | 新しい利用者はプラットフォームに入れない。既存の利用者は、今後数か月は訓練ジョブを作れる。作ったモデルは、土台のモデルが廃止されるまで使える | OpenAI API Docs(モデルの最適化、教師あり学習) |
| Anthropic | Claude APIは、現時点ではファインチューニングを提供していない。関心があれば、担当者に聞くように、と書かれている | Claude Platform Docs(用語集) |
| Gemini APIとAI Studioには、ファインチューニングに対応するモデルがない。当面追加する予定はない、と書かれている。Google Cloudの別のプラットフォームでは、教師あり学習に対応 | Gemini API Docs、Google Cloudの文書 | |
| Amazon(AWS) | Bedrockで、教師あり学習、強化学習、蒸留に対応。料金は、訓練データのトークン数×回数と、カスタムモデルの月額の保管料 | AWS Bedrockの文書 |
OpenAIのガイドには、対応モデルとして、教師あり学習でGPT-4.1の系列(gpt-4.1、mini、nano)が書かれています。Azure(Microsoft)の提供状況は、この記事では確認していません。
誤解されやすい点
「ファインチューニングすれば、新しい情報を覚える」とは限らない
公式の文書に「覚える」とは書かれていません。OpenAIは、ファインチューニングを、望む出力の例で振る舞いを導くものとして説明しています。Microsoftの文書は、主に「特定の仕事への適応」や「文体、形式」の話をしています。見立てです。新しい資料や変わりやすい情報を扱いたいなら、公式がRAGの用途として挙げている、最新情報、専門知識、出典の明示のほうが、説明に合っていると思います。
「一度訓練すれば、ずっと使える」とは限らない
Microsoftの文書は、土台のモデルが新しくなると、やり直しが必要になりうると書いています。OpenAIは、ファインチューニング済みのモデルも、土台のモデルが廃止されるまでしか使えないと書いています。
「ファインチューニングは、誰でもすぐ使える」わけではない
上の表のとおり、提供状況は会社ごとに違い、どんどん変わっています。使いたい場合は、各社の最新の案内を見る必要があります。
気をつけること
- 数字と提供状況は、2026年10月8日に読んだ公式ページに基づきます。ファインチューニングの提供は、特に変わりやすい分野です。
- 「最低10個、まず50個」は、OpenAIとMicrosoftの文書にある目安です。Googleの「100個以上」とは数字が違います。会社とモデルで違うので、実際に使う前に、最新の案内を確認してください。
- OpenAIのファインチューニングの料金は、読んだページでは確認できていません。AWSの課金の仕組みは、料金表の金額ではなく、仕組みの説明だけです。
- Claudeのファインチューニングが、クラウド事業者など別の経路で提供されているかどうかは、確認していません。
- ChatGPTのGPTsやClaudeのProjectsの内部の仕組み(RAGかどうか、どう検索するか)は、読んだヘルプでは確認できていません。
- 「プロンプト」「RAG」「ファインチューニング」の使い分けの表は、僕らの整理で、公式の表ではありません。
- ファインチューニングで機密データや個人情報を訓練に使うと、そのデータの扱いが問題になることがあります。サービスの規約と契約を確認してください。個別の判断は、専門家にご相談ください。
- 追加で訓練したモデルの安全性について、OpenAIは、ファインチューニングしたモデルを複数の安全の観点で評価し、基準を満たさないと展開を止められることがある、と書いています。他社の扱いは確認していません。
出典
- Model optimization(OpenAI API Docs、2026年10月8日確認)
- Supervised fine-tuning(OpenAI API Docs、2026年10月8日確認)
- Glossary(Claude Platform Docs、Anthropic、2026年10月8日確認)
- Fine-tuning(Gemini API Docs、Google、2026年10月8日確認)
- Introduction to tuning(Google Cloud、2026年10月8日確認)
- Customize your model to improve its performance for your use case(Amazon Bedrock User Guide、AWS、2026年10月8日確認)
- Customize a model with fine-tuning in Microsoft Foundry(Microsoft Learn、2026年10月8日確認)
- Fine-tuning considerations(Microsoft Learn、2026年10月8日確認)
- Creating a GPT(OpenAI Help Center、2026年10月8日確認)
- How can I create and manage projects?(Claude Help Center、Anthropic、2026年10月8日確認)
更新履歴
- 2026年10月25日 書き方を直しました。
- 前:運営者が使っていないと読める書き方 → いま:「この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません」。公式の資料を読んでまとめた記事で、使い心地は書いていない、という意味に直した
