3行でいうと
- 音声認識は、録音を「どの高さの音が、いつ鳴っているか」を示す絵(スペクトログラム)にして、文字を書き出します。
- 音声合成は逆に、文章から絵を作り、ボコーダーという部品で音の波に戻す方式が代表的です。
- OpenAIの文字起こしは、2026年10月8日時点の例で1分あたり$0.003〜$0.006です。
- 認識には「話していない言葉が出る」弱点が公式のモデルカードにあり、重要な録音は聞き直すよう勧めています。
この記事は公式・一次資料を読んでまとめたものです。この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。
先に結論
- 音声認識は、録音を「どの高さの音が、いつ鳴っているか」を示す絵(スペクトログラム)に変えて、そこから文字を書き出す仕組みです。OpenAIのWhisperは、音声を30秒ずつに区切り、この絵にして読み込みます。
- 音声合成は、逆向きです。文章から、まず絵(スペクトログラム)を作り、「ボコーダー」という別の部品で音の波に戻す方式が代表的です。絵を介さず、音の波を直接作る方式もあります(Hugging Faceの講座の説明)。
- 認識も合成も、料金の数え方は「分あたり」か「100万トークンあたり」です。2026年10月8日時点の例では、OpenAIの文字起こしは1分あたり$0.003〜$0.006です。
- 認識には「話していない言葉が出る」という弱点が、公式のモデルカードに書かれています。重要な録音は、文字になったものを必ず聞き直してください。
たとえ話:耳で聞いて楽譜に書く人と、楽譜を見て演奏する人
音声認識は、演奏を聞いて楽譜を書く人です。耳で聞いたものを、まず「どの高さの音が、いつ出たか」の記録にして、その記録から言葉を書き出します。
音声合成は、その逆に、楽譜を見て演奏する人です。「この言葉をこう読む」という楽譜(周波数の絵)を先に作り、それを実際の音に変えて鳴らします。誰の声で鳴らすかは、演奏者の特徴を表す情報で決まります。
仕組みを、順番に
1. 音は、数字の列に変えられる
Hugging Faceの音声講座(公式)の説明によると、マイクは音を電気の信号に変え、それを一定の間隔で測って、数字の列にします。1秒に何回測るかが「サンプリングレート」です。
- CDの音質は1秒に44,100回
- 音声のAIでよく使われるのは1秒に16,000回。5秒の録音なら80,000個の数字になる
- 人の声は8キロヘルツより下に収まるので、16キロヘルツで足りる。8キロヘルツだと高い音が落ちて、こもった音になる
講座は、AIはサンプリングレートが違うと正しく動きにくいので、事前に同じ値に揃える(リサンプリング)ことも説明しています。
2. 数字の列を「周波数の絵」にする
数字の列のままだと、声の特徴が見えにくくなります。そこで、時間ごとに、どの高さの音がどれくらい強いかを示す絵に変えます。これがスペクトログラムです。Whisperは、人の聞こえ方に合わせた尺度(メル尺度)と、音の強さを対数にしたもの(デシベル)を使った「ログメルスペクトログラム」を使います。講座によると、Whisperの入力は、必ず30秒の長さにそろえられます。短い録音は後ろに無音を足し、長い録音は30秒で切ります。
3. 認識:絵から文字を書き出す
講座は、音声認識の方式を2つ紹介しています。
| 方式 | 仕組み | 例 |
|---|---|---|
| CTC | 音の絵を、20ミリ秒ごとに区切り、1区切りにつき1文字を予想する。同じ文字が続いたら1つにまとめ、「空白」の印で区切る | Wav2Vec2など |
| 系列から系列へ(seq2seq) | 前半(エンコーダー)が音の絵を読んで要約を作り、後半(デコーダー)が文章を1つずつ書く。文章のAIと似た作り | Whisperなど |
CTCは、音が近いだけで綴りの違う言葉を出すことがあり、補う別の部品が必要になりやすいと講座は書いています。seq2seqは、逐次に書くため遅くなり、同じ言葉を繰り返したり飛ばしたりすることがある、とも書かれています。
Whisperについて、OpenAIの発表(2022年9月21日)は、ウェブから集めた68万時間の音声と文字のデータで訓練したこと、そのうち約3分の1が英語以外であることを書いています。同じ発表は、アクセント、雑音、専門用語への強さが上がり、英語の認識では人間に近い頑健さと正確さになった、と述べています。論文(2022年12月、arXiv)も同じ68万時間を挙げています。
4. 合成:文章から絵を作り、音の波に戻す
Hugging Faceの講座の例では、SpeechT5というモデルが、文章を数字の並びにして、ログメルスペクトログラムを作ります。その絵は、そのままでは再生できません。そこで、ボコーダー(この例ではHiFi-GAN)という別の部品が、絵を音の波に変えます。出力のサンプリングレートは16キロヘルツです。
講座は、Barkのように、ボコーダーを使わず音の波を直接作るモデルもあると書いています。
誰の声で話すかは、「話者埋め込み」という、声の質(音色、アクセント、抑揚)をまとめた数字の並びで決まります。講座の例では512個の数字です。これを替えると、1つのモデルでいろいろな声が出せます。
5. 読み方の指示
最近のサービスは、話し方も文章で指示できます。OpenAIのgpt-4o-mini-ttsは、アクセント、感情の幅、抑揚、速さ、口調、ささやきを指示できる、と公式ドキュメントにあります。GoogleのGemini TTSは、感情や速さを指定する欄があり、「笑う」「ため息」「短い間」のような印を文章に挟めます。
いま公式に書かれている数字(2026年10月8日確認)
文字起こし(音声認識)
| サービス | 公式に書かれていること | 料金 |
|---|---|---|
| OpenAI gpt-transcribe | 録音の文字起こしの推奨モデル。ファイルは25MBまで(mp3、wavなど)。単語ごとの時刻、字幕形式、英語への翻訳は、whisper-1を使う | 1分あたり$0.0045(1時間で約$0.27) |
| OpenAI gpt-4o-transcribe | 文字起こしモデルの一つ。指示文(プロンプト)で用語を補える | 1分あたり約$0.006(見積もり) |
| OpenAI gpt-4o-mini-transcribe | 同じく文字起こしモデルの一つ。指示文で用語を補える | 1分あたり約$0.003(見積もり) |
| Google Gemini 3.5 Transcribe | 言語の自動判定、話者の区別、単語ごとの時刻、用語の指定ができる | 入力が1分あたり$0.003、出力が$0.002、合算で約$0.005 |
OpenAIは、25MBを超える録音は、圧縮するか、25MB以下に分けるよう案内しています。文の途中で分けると正確さが落ちる、とも書かれています。話者ごとの区別は、gpt-4o-transcribe-diarizeという別のモデルで行います。whisper-1は98の言語に対応し、正確さは言語で違う、とOpenAIは書いています。
Googleの音声理解のドキュメントによると、音声1秒は32トークンで、1分で1,920トークンです。1回の依頼に入れられる長さは最大9.5時間、1回の依頼の合計サイズは20MBまでで、それ以上はファイル用の窓口を使います。なお、Googleの料金ページは、音声を1秒あたり25トークンで数えると書いています(別の説明箇所で、数字が違います)。
音声合成
| サービス | 公式に書かれていること |
|---|---|
| OpenAI(gpt-4o-mini-tts、tts-1、tts-1-hd) | 内蔵の声は13種類(ページ内に「11種類」という記述もあり、食い違い)。声は英語向けに最適化されている。書き出しは既定でMP3。 |
| Google Gemini 3.8 Flash TTS | 既製の声は30種類。130以上の言語。1回の依頼で最大2人の会話 |
| Google Gemini 3.8 Flash-Lite TTS | 100以上の言語。速さと費用を重視 |
OpenAIのgpt-4o-mini-ttsは、文字入力が100万トークンあたり$0.60、音声の出力が100万トークンあたり$12.00です。Googleの3.8 Flash TTSは、2026年末までは文字入力が$0.50、音声出力が$9.00で、2027年1月1日から$1.00と$18.00になる、と料金ページに書かれています。音声10秒あたりに直すと、Googleの表では$0.00225(2026年末まで)です(250トークン×$9÷100万で確かめました)。
自分の声や、他人の声を使う
OpenAIの独自の声は、承認された顧客だけが使えます。声の持ち主に決まった文を読んでもらった「同意の録音」が必要で、1つの組織で作れるのは20個まで、サンプルは30秒以内です。Googleの3.8系のモデルでは、声を設計または複製でき、1つのプロジェクトに最大200個まで保存できます。OpenAIの利用規則は、合成した声がAIのものであることを、利用者にはっきり知らせるよう求めています。
誤解されやすい点
「文字起こしの結果は、聞こえたとおり」ではない OpenAIが公開するWhisperのモデルカードは、音声に含まれていない文章が出ることがある(幻覚)、同じ文章を繰り返しやすい、言語ごとの出来にばらつきがあり、とくに強い結果が出るのは約10言語、と書いています。アクセントや方言でも差が出ます。
「長い録音も一度に読める」わけではない Whisperが一度に見るのは30秒です。長い録音は、30秒ずつずらして読むか、区切って並行して読む方法があり、区切る方法は速い代わりに少し正確さが落ちる、とモデルカードにあります。
「読み上げの声は、人間と区別できない」とまでは書かれていない 公式の資料は、感情や間まで指示できると書きますが、人間と見分けがつかないとは書いていません。AIの声であることの表示が求められている点は、上のとおりです。
気をつけること
- 数字は2026年10月8日に読んだ公式ページのものです。モデル名、料金、上限は変わります。GoogleのGemini 3.8系の音声合成の料金は、2027年1月1日に変わる予定と書かれています。
- 日本語の認識の正確さと、日本語の読み上げの自然さについて、公式の数字は確認できていません。OpenAIの声は「英語向けに最適化」とあり、Googleの合成は日本語を含むかどうか、読んだページで確かめていません。
- Whisperの仕組みの説明は、2022年の発表と論文、Hugging Faceの講座に基づきます。現在のgpt-transcribeなどの中身は、公式に書かれておらず、同じ仕組みかどうかは分かりません。
- 音声のまま対話するモデル(OpenAIのRealtime、GoogleのLive)は、料金表に載っていることだけ確かめました。仕組みは読んでいません。
- 音声合成の声の権利や、他人の声をまねることの扱いは、別の問題です。法律の判断は、専門家にご相談ください。
- 会議や通話の録音をクラウドに送る場合の、保存と学習への利用は、各サービスの規約と設定を確認してください。この記事では、個々の扱いを確かめていません。
- 料金はドル表記で、税や為替を含みません。「約」のついた数字は、公式の見積もりです。
出典
- Introducing Whisper(OpenAI、2022年9月21日公開、2026年10月8日確認)
- Robust Speech Recognition via Large-Scale Weak Supervision(arXiv、Radfordら、2022年、2026年10月8日確認)
- whisper-large-v3 モデルカード(Hugging Face、OpenAI、2026年10月8日確認)
- Audio data(Hugging Face Audio Course、2026年10月8日確認)
- Preprocessing an audio dataset(Hugging Face Audio Course、2026年10月8日確認)
- CTC architectures(Hugging Face Audio Course、2026年10月8日確認)
- Seq2Seq architectures(Hugging Face Audio Course、2026年10月8日確認)
- Pre-trained models for text-to-speech(Hugging Face Audio Course、2026年10月8日確認)
- Speech to text(OpenAI API Docs、2026年10月8日確認)
- Text to speech(OpenAI API Docs、2026年10月8日確認)
- Custom voices(OpenAI API Docs、2026年10月8日確認)
- Pricing(OpenAI API Docs、2026年10月8日確認)
- GPT-Transcribe(OpenAI API Docs、2026年10月8日確認)
- GPT-4o mini TTS(OpenAI API Docs、2026年10月8日確認)
- Audio understanding(Gemini API Docs、Google、2026年10月8日確認)
- Speech generation(Gemini API Docs、Google、2026年10月8日確認)
- Gemini Developer API pricing(Google、2026年10月8日確認)
更新履歴
- 2026年10月25日 書き方を直しました。
- 前:運営者が使っていないと読める書き方 → いま:「この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません」。公式の資料を読んでまとめた記事で、使い心地は書いていない、という意味に直した
