3行でいうと
- 2026年9月29日、第3巡回区控訴裁判所は、ROSS社がWestlawの要約文を学習に使ったことを「公正利用ではない」と判断した。
- この事件のAIは文章を新しく作らない型で、判決は生成AIの学習が公正かどうかには答えていない。
- 生成AIの学習については、2025年の地方裁判所の判断が2件あり、理由づけは同じではない。控訴審の判断は、僕らが確かめた範囲では見つからなかった。
この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。この記事は、判決文や米国著作権局の報告書などの公式の文書を読んでまとめたものです。条文と判決文の紹介であり、法的な助言ではありません。自社の場合にどうなるかは、著作権に詳しい弁護士などの専門家に相談してください。僕らの考えは「見立てです。」と分けて書きます。
先に結論
- 「AIの学習は侵害か」に、米国の裁判所が一つの答えを出したわけではありません。出ているのは、事件ごとの判断です。
- 控訴審の判断は、文章や画像を新しく作らない法律検索AIの事件でした。結論は「公正利用ではない」です。
- 生成AI(新しい文章や画像を作るAI)の学習は、2025年6月の地方裁判所の判断が2件あります。どちらも公正利用を認めましたが、限定つきです。
- どの判決文も、「AIの学習はすべて適法」「すべて違法」とは言っていません。
前提:言葉を先に
- 公正利用(フェアユース)は、米国の著作権法107条の考え方です。許可がなくても、批評、報道、教育、研究などで、公正と認められる範囲なら侵害にならない、という例外です。使える場面を細かく列挙せず、裁判所が4つの見方でその都度判断します。
- 学習データは、AIに学ばせるために読み込ませる大量の文章や画像です。
- 略式判決は、事実に争いがないとき、陪審員の審理を開かずに裁判官が出す判断です。以下の判決は、この段階のものです。
- 控訴審は、地方裁判所の判断を上級の裁判所が見直す審理です。中間上訴は、事件全体が終わる前に、法律問題だけを先に控訴審で判断してもらう手続きです。
- 非生成型AIは、既存の文章から答えを選んで返すタイプで、新しい文章を作りません。生成AIは新しい文章や画像を作ります。
公正利用の4つの見方
107条は、裁判所が考える項目を4つ挙げています。
| 見方 | 条文の趣旨 | 学習の事件での問い |
|---|---|---|
| 1. 使う目的と性質 | 営利か。元の作品と違う目的か | 学習は元の作品と別の目的か(「変容的」か) |
| 2. 作品の性質 | 創作性が高いか、事実に近いか | 小説のような創作物か、事実中心の資料か |
| 3. 使った量 | 作品全体のうち、どれだけか | 全文を使ったか。目的に見合うか |
| 4. 市場への影響 | 元の作品の市場や価値への影響 | 売上を奪うか。ライセンス(使用許諾)市場を奪うか |
4つを点数のように数えるのではなく、全部をあわせて考えます。条文は「考慮する要素に、次を含む」という書き方です(17 U.S.C. §107)。
これまでの主な判断
控訴審:ROSS事件(2026年9月29日)
Thomson Reuters ほか対 ROSS Intelligence(第3巡回区控訴裁判所、No. 25-2153)です。判決文は同裁判所のサイトで読みました。審理は2026年6月11日、判決は9月29日付で、Montgomery-Reeves裁判官が書いています。
法律情報サービスWestlawを持つ側が、競合のROSSを訴えました。ROSSは、外部の会社にWestlawの「ヘッドノート」(判例の要点を書いた短い解説文)をもとに学習用のメモを作らせ、自社の法律検索AIを学習させていました。地方裁判所は略式判決で、2,243件のヘッドノートについて公正利用ではないと判断し、ROSS側の中間上訴を控訴審が2025年6月に受理しました(Justiaの記録)。控訴審は、地方裁判所の判断を支持しました。
- ヘッドノートには「ほんの少しの創作性」があり、著作権で保護される。
- 見方1は不利。営利で、Westlawと同じ「法律情報を探す手助け」という最終目的を持つ。変容的だとしても「せいぜい、ごくわずか」。
- 見方2は、わずかに有利。公開済みで、事実の記述に近い。
- 見方3は不利。ヘッドノートの全文を使っていた。判例の本文は誰でも使えたので、写す必要はなく、「楽だった」ことは正当化にならない。
- 見方4は不利。Westlawと競合するサービスを作ったことと、ヘッドノートを「AIの学習用文章として使わせる」ライセンス市場が育っていること、の両方が理由に挙がった。
何を言っていないか。判決文の脚注7は、OpenAI関連の別の事件で米国司法省が出した意見書に触れ、ROSSのAIは「新しい表現を作れない」ので、そこでの問題はこの事件には当てはまらない、と書いています。生成AIの学習が公正かどうかは、この判決では決まっていません。判決文は冒頭で、これを「通常の著作権事件にすぎない」とも述べています。
2025年の2件の地方裁判所の判断を、判決文で読む
どちらも、生成AIの学習を扱った北カリフォルニア地区連邦地方裁判所の判断です。
Bartz対Anthropic(2025年6月23日、Alsup裁判官)。 AI企業は、海賊版サイトから本をダウンロードし、さらに紙の本を買ってスキャンして、社内の中央ライブラリに保管し、そこから選んだ本でAIを学習させていました。
- 学習そのものは公正利用。判決文は「quintessentially transformative(典型的に変容的)」と書く。
- 買った紙の本をデジタルにしただけの複製も、公正利用。
- 海賊版から作った中央ライブラリは、公正利用では正当化されず、損害額を決める審理に進むとされた。
- 著者側は、出力が侵害だとは主張していなかった。判決文は、侵害する出力があれば「別の事件になる」と書く。
- 学習用ライセンス市場が将来できると仮定しても、著作権法が著作権者に与える市場ではない、という趣旨。
この事件は和解し、2026年7月20日に裁判所が最終承認しました。和解金は15億ドル、1作品あたり約3,000ドルと報じられています(Jurist、Authors Guild)。和解が公正利用の判断にどう影響するかは、確認できていません。
Kadrey対Meta(2025年6月25日、Chhabria裁判官)。 13人の作家が、Metaが「シャドウライブラリ(海賊版の大規模サイト)」から取った本を学習に使ったと訴えました。裁判所はMetaに略式判決を認めましたが、限定をつけています。
- 学習の目的は「非常に変容的」で、見方1はMeta側に有利。
- 見方4が決め手。「そっくりな文章を出す」という主張と、「学習用のライセンス料を失った」という主張は退けた。
- 「市場の希薄化」(AIが大量に出す似た作品に押されて、元の作品が売れなくなること)は有望な主張になりうるが、著者側が証拠を出さなかった、とした。
- 「多くの場合、許可なく生成AIの学習のために著作物をコピーするのは違法になる」と書き、この判決はMetaの学習が適法という意味ではなく、集団訴訟でもないので13人の作家にしか及ばない、と述べている。
米国著作権局の見方(2025年5月)
米国著作権局は、「著作権と人工知能」報告書の第3部(生成AIの学習)の「公開前の版」を2025年5月に出しました。僕らが読んだのはこの版です。同局のページには、第3部の最終版は将来公開する、と書かれています(2026年10月23日に読んだ時点)。結論部分の要点は次のとおりです。
- 学習での作品の使用の多くは、変容的になりうる。公正かどうかは、どの作品を、どこから手に入れ、何の目的で使い、出力にどんな制限をかけるかで変わる。
- 大量の作品を商業的に使い、元の作品と競合する表現を作る場合、とくに違法な入手を伴うなら、公正利用の範囲を超える、と書かれている。
- 見方4では、市場の希薄化も考えるべきだとしている。
- ライセンス市場は育っているので、政府の介入は時期尚早、としている。
報告書は法律でも判決でもなく、特定の事件には意見を述べず、考え方の枠組みを示す文書です。
生成AIの判断は、まだ出ていない
見立てです。3つの判断を並べると、次のように整理できると思います。
| 論点 | 控訴審(ROSS) | 地裁(Bartz) | 地裁(Kadrey) |
|---|---|---|---|
| AIの種類 | 非生成型 | 生成AI | 生成AI |
| 学習は公正利用か | 公正ではない | 公正(購入した本など) | 公正(この記録では) |
| 学習用ライセンス市場 | 市場として考慮した | 著作権法が与える市場ではない | 原告が取る権利のある市場ではない |
| 不正な入手 | 不正なアクセスを悪意として不利に考慮 | 海賊版の中央ライブラリは公正ではない | 影響を検討したが、結論は変えなかった |
差の理由は、僕らには断定できません。ただ、ROSSは元のサービスの代わりになる競合品を作った事件で、BartzとKadreyは別の用途のモデルを作った事件、という違いは判決文から読み取れます。ROSS判決は、BartzとKadreyの理由は当てはまらないと書くにとどまり、採用も否定もしていません。
今後の予定です。
- Concord Music Group対Anthropic(北カリフォルニア地区、Eumi K. Lee裁判官)は、歌詞をAIの学習に使ったことなどを争う事件です。音楽出版社側は2026年3月23日に、学習と出力の両方について公正利用ではないとする略式判決を申し立てました。2026年4月24日の命令で、審理は10月21日とされました。追跡サイトには、10月21日午前10時(太平洋時間)に審理を開くという予告記事があります。ただし、10月23日に読んだ範囲では、審理が開かれたかどうかや、その結果は見つかりませんでした。
- OpenAI関連訴訟(ニューヨーク南部地区、No. 1:25-md-3143)には、2026年9月1日に米国司法省が意見書を出しています(ROSS判決の脚注7による)。
- 訴訟の数は、個人運営の追跡サイトで、10月8日の更新時点で148件でした。数え方は追跡先で違います。
ニュースで読んだ話を、一次資料で確かめた結果
| ニュースで読んだ話 | 確かめた結果 |
|---|---|
| 9月29日に第3巡回区控訴裁判所がAI学習と公正利用の判断を出した | 確認できた。ROSS事件の判決文を読んだ。非生成型AIの事件 |
| Concord対Anthropicの略式判決の審理が10月21日 | 2026年4月24日付の裁判所の命令で確認できた。実際に開かれたか、結果は、10月23日に読んだ範囲では見つかっていない |
| 追跡中の訴訟が144件 | 144件という数字は確認できていません。追跡サイトの1つは10月1日に145件、10月8日に148件 |
| Cerence対Microsoftが10月2日に和解 | 日付は確認できていません。報道では、木曜日に出された書類で合意に至ったと伝えられた。音声合成ソフトのライセンス切れをめぐる争いで、AI学習の事件とは書かれていない |
日本との違い(簡潔に)
日本の著作権法30条の4は、作品に表現された思想や感情を「自分で味わう、または他人に味わわせる」目的でない利用を、必要な範囲で認める条文です。技術開発の試験や情報解析が例に挙がり、著作権者の利益を不当に害する場合は対象外です(e-Gov法令検索の条文で確認)。
見立てです。ちがいは仕組みにあります。日本は学習のような利用を想定した条文があり、その中に例外を置いています。米国にはAI学習専用の条文がなく、訴えが起きた後に、裁判所が4つの見方で判断します。米国では「判決の積み重ねを見る」ことになります。日本の考え方は、記事128・173に書いています。
仕事でAIを使う人が押さえる点
見立てです。法律相談ではなく、判決文を読んだうえでの考え方の整理です。
- 「学習の話」と「出力の話」は別です。 上の判決の争点は、おもにAIを作る側の学習でした。Bartzの判決文は、侵害する出力があれば別の事件になる、と書いています。AIで作った文章や画像を公開するときに、既存の作品に似ていないか確かめる基本は変わりません。
- 「米国で適法と決まった」「違法と決まった」のどちらも言えません。 ROSSの判断は非生成型で、生成AIにそのまま当てはまりません。地裁の判断も、事件ごとの記録によります。
- 自社でAIを調整したり、社内文書を検索させる仕組みを作ったりするなら、データの出どころを残す。 判決でも報告書でも、入手方法(海賊版かどうか)と、元の作品と競合する用途かどうかが、重要な事実として扱われています。
- 他社の資料や有料データベースをAIに入れてよいかは、契約と利用規約が先です。 著作権より前に、契約で禁止されていることがあります。
- 使うサービスの規約で、著作権の問題が起きたときの扱いを確認する。 僕らは特定のサービスの規約をここでは読んでいません。
- 記録を残す。 どのAIで、どんな指示で作ったかを残すと、後から説明しやすくなります。
気をつけること
- この記事では、判決の内容を再現していません。ROSS判決、Bartz判決、Kadrey判決、著作権局の報告書は原文を読みました。Concord事件は、裁判所の命令と原告の申立書を読みました。和解の金額、訴訟の件数、Cerenceの件は、報道や支援団体などの二次的な情報です。
- Bartzの和解は、Alsup裁判官が退官したと報じられたあと、別の裁判官が最終承認しました。承認の命令そのものは読めていません。
- 取り上げた訴訟の当事者には、AI企業と権利者の双方がいます。僕らはどちらも評価せず、判決文に書かれていることだけを書きました。
- 裁判の予定や件数は日々変わります。2026年10月9日時点で確かめた範囲です(Concord事件の審理の予定と、著作権局報告書の最終版の有無だけ、10月23日に読み直しました)。ROSS事件で最高裁への申立てがあるかは、確認できていません。
- 判決は、事件ごとの事実と証拠にもとづきます。別の事件に同じ結論が出るとは限りません。
- 米国の判決は、日本の法律には直接及びません。米国向けのサービスや、米国のユーザーに関わる場合の参考情報です。
- 条文と判決文の紹介であり、法的な助言ではありません。個別の判断は専門家に相談してください。
出典
- Thomson Reuters Enterprise Centre GmbH v. ROSS Intelligence Inc., No. 25-2153(第3巡回区控訴裁判所の判決文、2026年9月29日付、2026年10月23日確認)
- Thomson Reuters v. ROSS Intelligence, No. 25-2153 の記録(Justia、2026年10月9日確認)
- Thomson Reuters v. ROSS Intelligence, 地方裁判所の意見書(デラウェア地区連邦地方裁判所、2025年2月11日付、2026年10月9日確認)
- Bartz v. Anthropic PBC, Order on Fair Use(北カリフォルニア地区連邦地方裁判所、2025年6月23日付。GovInfo掲載、2026年10月9日確認)
- Kadrey v. Meta Platforms, Inc., 2025 WL 1752484(北カリフォルニア地区連邦地方裁判所、2025年6月25日付の命令の写し。カリフォルニア大学アーバイン校サイト掲載、2026年10月9日確認)
- Copyright and Artificial Intelligence, Part 3: Generative AI Training, pre-publication version(米国著作権局、2025年5月、2026年10月9日確認)
- Artificial Intelligence and Copyright(米国著作権局のAIのページ、2026年10月23日確認)
- 17 U.S.C. § 107(Cornell Law School Legal Information Institute、2026年10月9日確認)
- Concord Music Group, Inc. v. Anthropic PBC, Order Regarding Temporary Stay of Related Actions(北カリフォルニア地区連邦地方裁判所、2026年4月24日付。CourtListener掲載、2026年10月9日確認)
- Concord Music Group, Inc. v. Anthropic PBC, Motion for Partial Summary Judgment(同裁判所、2026年3月23日付。CourtListener掲載、2026年10月9日確認)
- 著作権法 第30条の4(e-Gov法令検索のデータ、2026年10月9日確認)
- Judge approves record $1.5 billion settlement involving Anthropic(JURIST、2026年7月、2026年10月23日確認)
- Court grants final approval of Anthropic copyright settlement(Authors Guild、2026年10月9日確認)
- Bartz v. Anthropic 和解の公式サイト(2026年10月23日確認)
- Latest U.S. Map of Copyright Suits v. AI companies(chatgptiseatingtheworld.com、個人運営の追跡ブログ、2026年10月23日確認)
- Concord Music v. Anthropic の記事一覧(chatgptiseatingtheworld.com、個人運営の追跡ブログ、2026年10月23日確認)
- Microsoft, Nuance Settle Cerence TTS Copyright Suit in Principle(AI Weekly、2026年10月3日付、2026年10月23日確認)
更新履歴
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2026年10月25日 書き方を直しました。
- 前:運営者が使っていないと読める書き方 → いま:「この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません」。公式の資料を読んでまとめた記事で、使い心地は書いていない、という意味に直した
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2026年10月23日 公式の資料を読み直して、次の点を直しました。
- 前:報告書の第3部は、最終版が出ているかは確認できていません → いま:著作権局のページに、第3部の最終版は将来公開すると書かれています
- 前:Concord対Anthropicの審理は10月21日です。その後の変更は確認できていません → いま:追跡サイトに10月21日の審理の予告記事あり。開かれたか、結果は見つからなかった
- 前:裁判の予定や件数は2026年10月9日時点で確かめた範囲です → いま:Concord事件の審理の予定と報告書の最終版の有無だけ、10月23日に読み直したと追記
- 一部の出典は読めなかったため、その部分は前のままです。
