3行でいうと
- 個人情報保護委員会は、個人データを入れる前に、事業者が学習に使わないかなどを確かめるよう注意喚起しています。
- 手元の道具は、モデルの検索・ダウンロード・更新確認とクラウド機能のときだけ通信する、と公式が説明しています。
- 履歴やログは手元に残ります。LM Studioの会話は、JSONで
~/.lmstudio/conversations/にあります。 - 共有の線引きは、ネット公開、クラウド保存、外部AIへの貼り付けで、それぞれ別に考えます。
この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。この記事は公式の文書や論文を読んでまとめたものです。法律に関する部分は、個人情報保護委員会の公表資料と、ガイドラインの条文の紹介です。個別の判断は、専門家(弁護士や、組織の個人情報の担当者)に相談してください。
先に結論
見立てです。手元のAIで個人情報を扱う設計は、次の4つに分けると整理しやすいと考えています。
- 外に出る道を閉じる。 クラウド機能、ネットへの公開、更新やダウンロードの通信を把握する。
- 残るものを知る。 会話の履歴、ログ、読ませた文書が、どこに保存されるかを調べる。
- 保管と廃棄を決める。 バックアップを暗号化し、消すときは復元できない方法で消す。
- 共有の線を先に引く。 誰に、どの形で見せてよいか、出力を持ち出してよいかを決める。
前提:用語
個人情報保護委員会(PPC)のガイドライン(通則編、令和8年6月一部改正)の定義です。
- 個人情報:生存する個人に関する情報で、氏名や生年月日などで特定の個人を識別できるもの。他の情報と照合して識別できるものも含みます。
- 個人データ:個人情報データベース等(検索できるように整理された個人情報の集まり)を構成する個人情報。
- 要配慮個人情報:病歴や健康診断の結果などが具体例として挙がっています。取得に本人の同意が要るなど、扱いが厳しい情報です(法第20条第2項)。
- 個人情報取扱事業者:個人情報データベース等を事業の用に供している者。ガイドラインは、個人(法人でなくても)でも、事業の用に供していれば該当する、と書いています。営利か非営利かは問いません。
自分のメモや日記を、趣味で手元のAIに読ませる場合に、法の対象になるかどうかは、読んだ資料に直接の説明がなく、ここでは判断しません。事業として、顧客や従業員の情報を扱うなら、ガイドラインの対象になりえます。
公式の注意:クラウドのAIに入れるとき
PPCは2023年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」を公表しました。事業者向けの要点は次のとおりです。
- 個人情報を含む指示(プロンプト)を入れるときは、利用目的の達成に必要な範囲内か、十分に確認する。
- 本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入れ、その個人データが応答を出す以外の目的で扱われる場合は、個人情報保護法に違反する可能性がある。そのため、サービス提供事業者が、そのデータを機械学習に使わないことなどを、十分に確認する。
一般の利用者向けにも、次の点が書かれています。
- 入力した個人情報が機械学習に使われ、他の情報と結びついて、正確にも不正確にも出力されるリスクがある。
- 応答には不正確な内容が含まれることがある。個人情報について不正確な内容が出るリスクもある。
- 提供事業者の利用規約とプライバシーポリシーを確認して判断する。
見立てです。手元で動かす道具は、入力が外部の事業者のサーバーに渡らない形にできます。そのため、上の注意の中心(応答以外の目的での取り扱い、学習への利用)は、設計の段階で小さくできると考えます。ただし、クラウド機能を使えば、この前提は変わります。また、応答が不正確になるリスクは、手元のAIでも同じです。
1. 外に出る道を閉じる
各道具の公式文書で、通信が起きる場面です。
| 道具 | 通信が起きる場面(公式の説明) | 切る方法 |
|---|---|---|
| LM Studio | モデルの検索とダウンロード、アプリの更新確認、クラウド機能を使うとき。ほかは手元で完結 | クラウド機能を使わない。モデルを先に入れておく |
| Ollama | 手元で動かすときは、プロンプトやデータはollama.comに送られない。クラウドのモデルを使うときは処理される | OLLAMA_NO_CLOUD=1、またはserver.jsonでdisable_ollama_cloudを設定 |
| Open WebUI | 自分で運用するサーバー。外部のモデルを設定すれば、プロンプトがその提供元に見える可能性がある | 手元か社内のモデルだけを接続する |
LM Studioのプライバシーポリシー(2026年6月施行)は、手元でモデルを動かす限り、メッセージ、チャット履歴、文書は送信されない、とまとめています。クラウド機能を使うと、リクエストが一時的に処理されます。文書とのチャット(RAG)も、処理は手元で完結する、と公式の「オフライン運用」の文書にあります。
Ollamaの文書には、クラウドを無効にした後、ログにOllama cloud disabled: trueと出る、とあります(公式文書の説明です。この記事では、実行していません)。
ネットに公開しない
前の記事(手元のAIの安全)で書いたとおり、待ち受けを0.0.0.0にするなど、設定1つで入口は外に開きます。個人データを扱う機械は、初期設定の「自分のパソコンの中だけ」のままにするのが、まず基本です。
2. 残るものを知る
| 道具 | 残るもの | 場所(公式の説明) |
|---|---|---|
| LM Studio | 会話 | Mac/Linuxは~/.lmstudio/conversations/、Windowsは%USERPROFILE%\.lmstudio\conversations。JSON形式。手で編集しないよう案内あり |
| Ollama | ログ | Macは~/.ollama/logs/server.log、Linux(systemd)はjournalctl、Windowsは%LOCALAPPDATA%\Ollama、コンテナはdocker logs |
| Ollama | モデルと設定 | Macは~/.ollama/models など |
| Open WebUI | 会話、アップロードした文書、監査ログ | データベース(SQLiteまたはPostgreSQL)とデータの保存先 |
LM Studioの文書は、モデルが会話から学習することはない、モデルが知っているのは会話に入っている内容と設定(システムプロンプトなど)だけ、と説明しています。つまり、読ませた個人情報がモデルの中に「覚え込まれる」ことは、この説明の範囲ではありません。ただし、会話の履歴は手元のファイルに残ります。
Ollamaのチャット画面の履歴がどこに保存されるかは、読んだ文書では確認できませんでした。ログに、プロンプトの中身がどこまで出るかも、確認できていません。
Open WebUIの公式文書には、履歴を残さない「一時チャット(Temporary Chat)」があります。ただし、その場合も、プロンプトはOpen WebUIとモデルの接続先で処理され、有効なツールは自分のデータを保存することがある、と書かれています。監査ログは、中身を含めない「METADATA」を基本とし、会話の中身を含む設定は、ログの保管先が承認されているときだけにするよう勧めています。
3. 保管とバックアップ、廃棄
PPCのガイドラインは、事業者に対して、個人データの安全管理措置(法第23条)を求めています。別添に、具体的な措置が書かれています。
ガイドラインの安全管理措置:機器まわりに関わる部分
ガイドライン別添(通則編)が挙げる措置のうち、手元のAIの機械に関わるものです。事業者向けの記述で、個人の趣味の利用に当てはまるかは、ここでは判断しません。
物理的な措置
- 個人データを扱う機器や媒体の、盗難・紛失の防止(例:施錠できる場所に保管、機器をセキュリティワイヤーで固定)。
- 持ち運ぶとき、データを暗号化するか、パスワードで保護する。
- 削除や廃棄は、復元不可能な手段で行う。例として、専用のデータ削除ソフトの利用、物理的な破壊が挙がっています。削除、廃棄をしたことを、記録・確認する。
技術的な措置
- アクセス制御:扱える人と範囲を限定する。
- 識別と認証:ユーザーIDとパスワードなど。
- 外部からの不正アクセスの防止:ファイアウォール、セキュリティソフト、OSとソフトの自動更新。ログの定期的な分析で不正アクセスを検知する、という例もあります。
- 情報システムの使用に伴う漏えいの防止:通信経路や内容の暗号化、送るファイルへのパスワード。
Open WebUIの公式文書の例
- SQLiteだけで運用する場合、データの保存先を暗号化されたファイルシステム(LinuxのLUKS、WindowsのBitLocker、MacのFileVault)に置く。
- バックアップも暗号化する。保管場所の暗号化と、鍵を持つ人の範囲は別の問題で、データベースやホストの管理者は信頼の範囲に入る、と書かれています。
見立てです。手元のAIで個人データを扱うなら、次の3点が現実的な出発点だと考えます。
- 会話の保存先のフォルダを、暗号化されたディスクの中に置く。
- バックアップ(外付けディスクやクラウドの同期)に、そのフォルダが含まれていないか、確かめる。含めるなら、暗号化する。
- 不要になった会話ファイルは、消したあとのバックアップからも消す。
4. 共有の線引き
クラウドに保存する場合
PPCのQ&A(令和7年7月1日版)は、クラウドサービスの利用が第三者提供や委託に当たるかは、保存したデータに個人データが含まれるかではなく、「クラウドサービスの提供事業者が個人データを取り扱うこととなっているか」が基準だと説明しています。取り扱わない場合の例として、契約条項で取り扱わない旨が定められ、適切にアクセス制御が行われている場合が挙がっています。その場合でも、利用する事業者自身の安全管理措置は必要です(Q7-54)。
ネットワークで他の人に使わせる場合
ガイドラインは、「提供」を、個人データを自己以外の者が利用可能な状態に置くことと定義しています。物理的に渡していなくても、ネットワークで利用できる状態(権限が与えられている状態)なら「提供」に当たります。第三者提供には、原則として本人の同意が要ります(法第27条第1項。例外あり)。
これは事業者向けの条文の紹介です。家族や同僚に画面を見せる、サーバーを共有する、といった具体的な場面が、どれに当たるかは、ここでは判断できません。
線引きの表
見立てです。場面ごとに、あらかじめ決めておくと迷いません。
| 場面 | 先に決めること |
|---|---|
| 手元のAIで読ませる | 保存先、保管、消し方 |
| 要約や抜き出しの結果を、他の人に渡す | 結果にも個人情報が含まれる。渡す相手と目的 |
| 手元のAIをネットワークで共有する | 認証、アクセスできる人の範囲、ログ |
| 外部のクラウドAIに貼る | 事業者の学習利用の有無、利用規約、同意の要否(PPCの注意喚起) |
| クラウドに同期・バックアップ | 事業者が個人データを取り扱わない契約か、暗号化 |
法改正の動き
PPC事務局の資料(令和8年7月)によると、「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」が、2026年7月10日に成立しました。公布は7月17日だと、PPCの改正法のページにあります。概要には、統計作成等にのみ使う場合(AI開発等を含む)の本人同意の見直し、16歳未満の者に関する規律、重大な違反への課徴金などが挙がっています。施行は、原則として公布の日から2年を超えない範囲、とあります。
この記事で引いたガイドラインは、令和8年6月14日時点の条番号です。施行に合わせて、条文やガイドラインが変わる可能性があります。PPCのページには、政令・規則の整備に向けた基本的な考え方を、2026年10月14日までに順次決めたと載っています。具体的な施行日は、読んだページには見つかりませんでした。使う時点の最新版を、PPCの公式サイトで確認してください。
つまずきやすい点
- 「オフライン」のつもりで、クラウド機能を有効にしている。
- 履歴を消したつもりが、バックアップ、同期、ログに残っている。
- 出力に個人情報が含まれることを忘れて、そのまま外に貼る。
- ネットワーク公開の設定のまま。 前の記事を参照してください。
- 個人の使い方と事業の使い方を混ぜる。 事業の顧客名簿を個人の端末で処理する、など。
気をつけること
- この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。PPCの公表資料、ガイドライン、Q&A、各道具の公式文書を読んだ範囲です。
- 法律に関する説明は、条文と公式資料の紹介です。ある場面が法の義務に当たるか、同意が要るかは、個別の事情で決まります。弁護士や、組織の個人情報の担当者に相談してください。
- 趣味の個人利用が法の対象になるかは、読んだ資料に直接の説明がなく、判断していません。
- Ollamaのチャット画面の履歴の保存場所と、ログにプロンプトがどこまで出るかは、確認できていません。
- 通信の有無は、各社の説明を読んだもので、実際に通信を測ったものではありません。
- ガイドラインやQ&Aは更新されます。Q&Aは令和7年7月1日版、ガイドラインは令和8年6月一部改正版を読みました。
- 医療や健康の情報など、要配慮個人情報を扱う場合は、特に専門家に確認してください。
出典
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(個人情報保護委員会、2023年6月2日、2026年10月23日確認)
- 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)(個人情報保護委員会、令和8年6月一部改正、2026年10月23日確認)
- 「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A(個人情報保護委員会、令和7年7月1日版、2026年10月23日確認)
- 個人情報保護法等の一部を改正する法律について(個人情報保護委員会事務局、令和8年7月、2026年10月23日確認)
- 令和8年 改正個人情報保護法(個人情報保護委員会、2026年10月23日確認)
- Data & Privacy(LM Studio Desktop App Privacy Policy、LM Studio、2026年10月23日確認)
- Offline Operation(LM Studio Docs、LM Studio、2026年10月23日確認)
- Manage chats(LM Studio Docs、LM Studio、2026年10月23日確認)
- Chat with Documents(LM Studio Docs、LM Studio、2026年10月8日確認)
- FAQ(Ollama Docs、Ollama、2026年10月23日確認)
- Troubleshooting(Ollama Docs、Ollama、2026年10月23日確認)
- Chat Data Privacy & Encryption(Open WebUI Docs、Open WebUI、2026年10月23日確認)
- Hardening Open WebUI(Open WebUI Docs、Open WebUI、2026年10月8日確認)
更新履歴
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2026年10月25日 書き方を直しました。
- 前:運営者が使っていないと読める書き方 → いま:「この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません」。公式の資料を読んでまとめた記事で、使い心地は書いていない、という意味に直した
-
2026年10月23日 公式の資料を読み直して、次の点を直しました。
- 前:改正法は2026年7月10日に成立しました → いま:成立のあと、公布は7月17日だと、PPCの改正法のページにあります
- 前:使う時点の最新版を、PPCの公式サイトで確認してください → いま:政令・規則の基本的な考え方が10月14日までに順次決まったと載っていると追記。具体的な施行日は見つからなかった
- 一部の出典は読めなかったため、その部分は前のままです。
