3行でいうと

  • リアルにデジタルを足すのではなく、デジタルの中にリアルの接点があると捉え直す
  • オンラインとオフラインを統合するOMOの発想で、顧客体験を設計する
  • 売り切りから、接点を続けて価値を出し続ける体験中心のモデルへ転換する

向いている人

事業や商品のデジタル化に関わる人。顧客体験や、データを使ったサービス改善を考える立場の人。

読む意味

AIやデータを活用する事業を、技術ではなく顧客との関係から考える視点が得られる。「デジタル化」を、業務の効率化にとどめず、事業モデルの転換として捉え直す助けになる。

読むときの注意

中国などの事例が中心で、日本の消費者感覚やデータの扱い方とは前提が異なる。便利さだけを追うことへの疑問を述べる読者の感想もある。

どんな本か

この本は、モバイル決済などが普及した社会で、リアルの行動を含むあらゆる顧客との接点がデータとして捉えられる「アフターデジタル」という時代の見方と、それに沿った事業のあり方を論じた経営書である。著者の藤井保文は、UXのコンサルティング会社ビービットで中国を含む東アジアを担当し、上海にも勤務した。尾原和啓は、人工知能の研究を経てマッキンゼー、Google、楽天などで働いたIT評論家である。中国など、デジタル化が進んだ地域の事例を現地での観察をもとに紹介している。

中心にある主張は、視点の転換である。従来の「ビフォアデジタル」は、リアルが主で、ときどきデジタルにも来る顧客を想定する。アフターデジタルは、デジタルが主で、ときどきリアルにも来る顧客を想定する。この世界では、オンラインとオフラインを分けず、両者を統合した体験を設計する「OMO(Online Merges with Offline)」が要になる。また、商品を売って終わりではなく、顧客との接点を保ち続け、行動データをもとに価値を提供し続ける体験(UX)中心のビジネスが求められる。

全4章で、デジタル化する世界の本質、OMO型ビジネスの視点転換、事例による思考訓練、日本式のビジネス変革という順に進む。中国の事例をそのまま真似るのではなく、日本の商習慣や消費者の受け止め方を踏まえて取り入れるべきだと述べ、データ活用の便利さとプライバシー意識の釣り合いも論点にしている。

中身の柱

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概要

『アフターデジタル――オフラインのない時代に生き残る』は、株式会社ビービットで中国を含む東アジアのUXコンサルティングに携わる藤井保文と、IT評論家の尾原和啓が、中国をはじめとするデジタル先進国の事例をもとに、リアル(オフライン)がデジタル(オンライン)に包含される「アフターデジタル」という時代認識と、それに基づく事業戦略のあり方を論じた一冊である。2019年3月25日に日経BPより刊行された(A5判・200ページ、定価2,200円+税。日経BOOKプラスによる)。ビービットの紹介記事によれば、同社が中国視察やセミナーで発信してきた「中国先進デジタル環境の裏側にある仕組みや新たなビジネス競争原理」への反響の大きさから書籍化が決まり、発売前に増刷が決まったという。書評サイトaty800は、発売3か月で3万部を突破したと伝えている。小山薫堂が推薦コメントを寄せ、「日本はいま、中国から何を学ぶべきか?」と問いかけている。

本の構成

本書はまず、スマートフォンとモバイル決済の普及した中国社会において、リアル店舗での購買行動を含むあらゆる顧客接点がデジタルデータとして捕捉される「アフターデジタル」の状態が既に到来しているという現状認識を、豊富な中国企業の事例とともに提示することから始まる。続いて、オンラインとオフラインの垣根をなくし、両者を統合した顧客体験を設計する「OMO(Online Merges with Offline)」という概念が解説され、企業が製品を売り切りで提供するのではなく、顧客との接点を維持し続けることで継続的に価値を提供する「体験(UX)」中心のビジネスモデルへと転換する必要性が論じられる。終盤では、日本企業がこうした変化にどう対応すべきかという実践的な提言がまとめられる構成になっている。

日経BOOKプラスと紀伊國屋書店の掲載によれば、目次は全4章である。第1章「知らずには生き残れない、デジタル化する世界の本質」、第2章「アフターデジタル時代のOMO型ビジネス~必要な視点転換~」、第3章「アフターデジタル事例による思考訓練」、第4章「アフターデジタルを見据えた日本式ビジネス変革」。紀伊國屋書店の内容紹介は、扱う概念として「OMO」「属性志向から状況志向へ」「エクスペリエンス×行動データ」「決済プラットフォーマー」「グロースチーム」を挙げている。

書評サイトaty800の要約によれば、第1章は世界と日本の状況の差とモバイル決済がすべての購買をIDに紐づくデータにする仕組みを、第3章は既存の概念をアフターデジタルの世界観で再解釈する思考訓練を扱う。第3章では、GDPRとEUのデータ主義をめぐる議論、「レアな接点」の価値、技術進化による「おもてなし2.0」、高速化・細分化・ボーダレス化するものづくりが取り上げられるという。

主要な内容

著者の藤井保文は1984年生まれで、東京大学大学院を修了後、2011年に株式会社ビービットに入社し、2014年から台北支社、2017年から上海支社で勤務して、UX(ユーザー体験)を軸としたコンサルティング業務に携わってきた人物である(PR TIMESのリリースによる)。ビービットの紹介記事によれば、中華圏に5年、上海に2年の滞在経験がある。共著者の尾原和啓は、同記事によれば京都大学大学院で人工知能を研究し、マッキンゼー、Google、楽天などを経て、シンガポールとバリ島を拠点に活動するIT評論家で、『ITビジネスの原理』の著書がある。中国のIT企業やスマートフォン決済サービスの現場を直接観察してきた経験に基づき、日本ではまだ実感されにくかった中国のデジタル社会の実態を、具体的な事例とともに紹介している。

本書の中心的な主張は、モバイル決済とビッグデータ解析が高度に発達した社会では、企業が顧客と接するあらゆる場面(店舗での購買、移動、日常の行動など)がデータとして記録され、その膨大な行動データをもとに一人ひとりに最適化されたサービスを提供することが可能になるというものである。このような社会では、もはや「リアルの世界にデジタルが付加される」のではなく、「デジタルの世界の中にリアルの接点が存在する」という発想の転換――これが「アフターデジタル」という言葉の意味するところである――が必要になると著者らは説く。

著者らはまた、アフターデジタル型のビジネスにおいては、企業が保有する顧客データの「量」以上に、顧客とどれだけ高い頻度で良質な接点を持ち続けられるかという「接点の質と頻度」が競争優位の源泉になると指摘する。一度きりの購買データだけでは顧客の実像は見えてこないが、日常的な行動データが蓄積されることで、顧客一人ひとりの状況に応じた提案やサービス改善が可能になり、これが企業と顧客との関係を継続的に強化していく好循環を生み出すと論じている。

aty800の要約によれば、「OMO(Online Merges with Offline)」は、グーグル・チャイナの元CEOである李開復(リー・カイフー)が2017年9月に提唱した考え方である。同要約は、OMOが成り立つ条件として、スマートフォンの普及による常時接続、モバイル決済の浸透、安価で高品質なセンサーの遍在、自動化されたロボットと人工知能の普及の四つを挙げる。そのうえで、日本で主流の「ビフォアデジタル」(リアルが主で、ときどきデジタルに来る顧客を想定)から、「アフターデジタル」(デジタルが主で、ときどきリアルに来る顧客を想定)への視点転換を説く。属性データ単体には価値がなく、普段の行動データと結びついて初めて意味を持つという点が、同要約の挙げる核心の一つである。ビービットの紹介記事は、米国の一部地域、中国の都市部、北欧では、行動データを高頻度に取得できるモバイル端末やセンサーが普及してオンラインとオフラインの関係が逆転しつつあるとしている。

具体例

aty800の要約によれば、第1章は中国の状況を数字で示し、インターネット人口が8億人超、スマートフォン保有率97%、都市部のモバイル決済利用率98%としたうえで、日本は2018年時点でキャッシュレス決済が2割にとどまると対比している。事例としては、大企業の変革の好例として平安保険グループが、また、支払い能力を可視化した「芝麻(シーマ)信用」が取り上げられる。同要約によれば、芝麻信用のスコアは350〜950点の範囲で、個人の特性、支払い能力、返済履歴、人脈、素行などを評価し、出身大学や職業の登録でスコアを高められる。

本書はまた、日本企業が中国の事例をそのまま模倣するのではなく、自国の商習慣や消費者心理を踏まえた上でOMOの発想を取り入れることの重要性も強調している。個人情報の取り扱いに対する消費者の受け止め方や、キャッシュレス決済の普及度合いが国によって異なる中で、データ活用の利便性と消費者のプライバシー意識とのバランスをどう取るかという論点も、実践上の重要な考慮点として提示されている。

実践への応用

本書で提示される「OMO」の発想は、実店舗とECサイトを別々のチャネルとして運営しがちな日本の小売業や小売企業にとって、両者を統合した一貫性のある顧客体験を設計し直すための具体的な視座を提供する。顧客との接点を一度限りの取引で終わらせるのではなく、継続的なデータの蓄積とサービス改善のサイクルに組み込むという発想は、製造業やサービス業を問わず、顧客との関係を長期的な価値創出の起点として捉え直す際の実践的な指針となる。

本書はまた、日本企業がしばしば「デジタル化」を単なる業務の効率化や既存業務のIT置き換えとして狭く捉えがちである点を課題として指摘している。著者らは、真のデジタルトランスフォーメーションとは、顧客との関係性そのものを再設計し、ビジネスモデルの根幹を「モノを売って終わり」から「体験を通じて関係を継続する」へと転換することであると強調しており、この視点の転換なしに単に業務システムを刷新するだけでは、アフターデジタル時代の競争優位を築くことはできないと警鐘を鳴らしている。

位置づけ・評価

本書は、中国のデジタル社会の実態を日本のビジネスパーソンに広く知らしめた先駆的な一冊として、刊行後大きな反響を呼び、日本国内のビジネス書市場で「OMO」という概念を一般に浸透させるきっかけとなった。著者らはその後も『アフターデジタル2 UXと自由』(2020年)、『ジャーニーシフト』(2022年)と関連するテーマの著作を継続的に発表しており、デジタルトランスフォーメーションを論じる日本語の経営書の中でも、具体的な海外事例の厚みという点で高く評価されている一冊である。

著者の藤井保文は本書執筆当時、上海を拠点に活動しており、現地企業の担当者への直接取材や自らのユーザー体験に基づいて事例を収集していた。こうした現地滞在に基づく一次情報の厚みが、伝聞や統計データだけでは伝わりにくい、中国デジタル社会の生活実感を伴った描写を可能にしている点も本書の評価につながっている。

aty800の要約は、本書の第4章が提示するUXの5段階の進化モデルを紹介している。0段階はビジュアルデザインとUI中心、1段階は「ペネトレーション」(デザイン・テクノロジー・ビジネスを等しく統合)、2段階は「ディフュージョン」(ビジネスオペレーション側の体験設計)、3段階は「エボリューション」(既存ビジネスをオンラインの方法論で再構築してOMOを実現する段階で、日本企業の目指すべき段階とされる)、4段階は「データドリブン」、5段階は「ホリスティック・エクスペリエンス」である。同要約は、経済産業省が2018年に公表したDXレポートの「2025年の崖」(2025年以降に最大で年12兆円の経済損失が生じうるとの警告)とも関連づけて本書を紹介している。また、データを握る巨大企業を敵ではなく、共存する仲間として理解することが重要だという著者らの姿勢も、その要約は伝えている。