この先に書いてあること
- AIが来て、ホームページ制作会社の仕事はどうなったのか。
- 最初に「高いですよ」と言う理由。
- 30年前のある部長の言葉。
AIが登場して、ホームページ制作会社の仕事は減ったのだろうか。
最近、そんなことを考えることがある。
僕の会社は、もう30年近くホームページを作っている。
普通に考えれば、AIで誰でも簡単にホームページを作れるようになったのだから、僕たちのような会社の仕事は減ってもおかしくない。
ところが実際には、僕の感覚では逆だ。
むしろ仕事は増えている。
なぜなんだろう。
考えてみると、AIが登場したからといって、僕の仕事に対する考え方はほとんど変わっていなかった。
「ホームページが欲しい」だけの仕事は受けてこなかった
僕は昔から、ただ「ホームページが欲しい」というお客さんの仕事をあまり受けてこなかった。
会社にホームページがないから作りたい。
名刺にURLを載せたい。
他の会社も持っているから、うちも欲しい。
それだけなら、僕は「お金がもったいないですよ」と思ってしまう。
ホームページは作ることが目的ではない。
そのホームページを使って何をしたいのか。
売上を増やしたいのか。
新しい顧客を増やしたいのか。
既存顧客の満足度を上げたいのか。
問い合わせを減らしたいのか。
営業につなげたいのか。
そこを最初に徹底的に考える。
例えば、できるだけ人間が対応しなくても、ホームページだけでお客さんの疑問に完璧に答えられるようにしたい会社がある。
そういう会社なら、徹底的に情報を出す。
一方で、ホームページでは興味だけを持ってもらい、その後は営業担当者が直接話すことで契約につなげたい会社もある。
そういう会社なら、ホームページですべてを説明してしまってはいけない。
同じ「ホームページを作る」という仕事でも、目的によって作り方は正反対になる。
公開してからが、本当の仕事
だから僕の仕事は、ホームページを公開したら終わりではない。
むしろ、そこから始まる。
本当に問い合わせは増えたのか。
問い合わせは増えたけれど契約につながっていないのなら、何が悪いのか。
商品なのか。
価格なのか。
営業方法なのか。
そもそも会社の業務の流れがおかしいのか。
そんなことを考えているうちに、ホームページとは全然関係のない相談までされるようになる。
会社の業務の流れを整理してほしい。
売上を増やすには何をしたらいい?
新商品を作りたいんだけど、何を作ったらいいと思う?
この商品をどうやって売ったらいい?
会社のシステムを全部作り直したいから設計してくれない?
気がつけば、完全なる便利屋さんである(笑)
でも不思議なことに、一度そういう関係になった会社から、取引をやめたいと言われることはほとんどない。
毎月のように何かしら仕事をいただく。
そして僕は営業というものを、ほとんどやってこなかった。
僕が作ったホームページを見た別の会社から、
「このホームページを作った人に、うちもお願いしたい」
と連絡をいただく。
そうやって仕事がつながってきた。
「うちは高いですよ」と最初に言う
ただ、初めて問い合わせをいただいた会社には、必ず言うことがある。
「うちの制作代、高いですよ。ホームページを作るだけの会社と比べたら、びっくりするくらい高いです。それでも話をしますか?」
それでも、
「構わないから話を聞いてほしい」
と言ってくれる会社とだけ打ち合わせをする。
だからなのか、提示した金額が通らなかった記憶はほとんどない。
だって最初から「高いですよ」と言っているのだから(笑)
金のない会社と、10年付き合う
ところが、その正反対のこともやる。
ものすごく面白い商品やサービスを持っている。
僕には「これは絶対面白い」と思える。
でも、本当にお金がない。
ホームページを作る費用さえ躊躇している。
そんな会社がある。
僕が「これはいける」と思ったら、採算なんて考えずに付き合うことがある。
そして、金をもらえないからといって手を抜くこともしない。
「これ絶対売れるよ。今は金がないんだから仕方ない。いつか売上がどんどん上がったら、その時は利益の半分を俺によこせよ(笑)。絶対成功させよう」
そんな感じで始まる。
そして10年後、本当に大きな会社になり、今度は毎月たくさんの仕事を出してくれるようになった会社もある。
僕はそれを、自分に見る目があったからだとはあまり思っていない。
運が良かったんだと思っている。
ただ、僕にとっての「運」は、空から突然降ってくるものではない。
運なんて、そこら中に転がっている。
それを見つけるか。
それとも気づかず通り過ぎるか。
その違いなんじゃないかと思っている。
なぜ僕がそんな考え方になったのか。
振り返ると、会社を始めた時のことに行き着く。
「会社じゃなくて、君と付き合ってるんだ」
独立する前、僕はある会社に勤めていた。
その時、僕が担当していたある取引先について、会社からこんなことを言われた。
「この顧客は儲からないから、営業に行く必要はない」
僕には、ものすごく違和感があった。
その取引先は、世界中の誰もが知っているようなビッグネームだった。
そして僕には、とてつもない潜在価値があるように見えていた。
今の数字だけを見れば、会社の判断が正しかったのかもしれない。
でも僕の感覚は、
「絶対に違う」
と言っていた。
もっと力を入れるべきだと思った。
そこで自分の考えを会社の部長に話した。
部長は何も言わなかった。
その時、
「ああ、やっぱり僕はこの会社には残れないな」
と思った。
それなら独立して、自分が正しいと思うやり方でやってみよう。
そう決めた。
退職が決まり、担当を引き継ぐため、新しい担当者と会社の部長と僕の3人で、その取引先へ挨拶に行った。
僕は淡々と、
「退職することになりました。今後はこちらが新しい担当者になります」
と伝えた。
すると、取引先の部長が言った。
その言葉を、僕は今でも忘れられない。
「君が退社するなら、うちはお宅とは付き合うつもりはない。君がどこに行くかは知らんけど、どこに行っても必ず連絡をよこしなさい。僕は会社じゃなくて君と付き合ってるんだよ。それを忘れるな」
本当に熱い言葉だった。
その後、僕は会社を辞め、自分の会社を作った。
そして改めて、その部長のところへ挨拶に行った。
すると、
「お前、思い切ったなあ。えらいえらい。でも仕事なんかないだろ。最初なんてそんなもんだよ」
そう言って笑った。
そして、
「請求書切って持ってこい。ゆっくり仕事で返してくれればいい」
と言った。
半年くらい会社を動かせるだけの資金を、あっさり出してくれた。
あの部長がいなかったら、今の僕はいない。
これは間違いない。
恩は、相手がいなくなっても消えない
だから僕は、その人から受けた恩を仕事で返そうと思った。
とにかく頑張った。
その人はもういない。
でも、いなくなったから恩がなくなるわけではない。
今でも僕が曲がった仕事をしたくないと思う理由の一つは、そこにある。
金を持っている会社だから大切にする。
金のない会社だから適当に扱う。
有名な会社だから力を入れる。
小さな会社だから後回しにする。
そういう仕事はしたくない。
どんな会社でも、できるだけ真っ直ぐ、公平な目で見たいと思っている。
そして最近になって、少し不思議なことに気がついた。
あの時、その部長が僕にしてくれたことと、今、自分が若い会社や小さな会社にしていることは、もしかすると同じなのかもしれない。
あの時の僕には、金も会社としての実績もなかった。
それでも、その部長は僕を見てくれた。
今度は僕が、
「この会社はまだ金がない。でも、これは面白い」
と思った会社に、自分の時間と技術を使っている。
お金を渡しているわけではない。
ホームページを作る。
売り方を考える。
商品を考える。
システムを作る。
一緒に悩む。
僕なりの方法で、同じことをしているのかもしれない。
AIは、30年のやり方を速くしてくれた
そして今、AIが登場した。
ホームページ制作会社の仕事はAIに奪われる。
そんな話もよく聞く。
でも僕の会社では、今のところ逆のことが起きている。
今まで時間がなくて断っていた仕事まで、受けられるようになった。
以前なら何日もかかっていた作業が、AIを使えば圧倒的に短い時間で終わる。
調査も、設計も、プログラムも、資料作りも、とんでもなく速くなった。
だから、今までなら「やりたいけど時間がない」と諦めていたことまでできるようになった。
考えてみれば、30年近く仕事のスタンスはほとんど変わっていない。
変わったのは、ゴールまで到達する速度だ。
AIが僕の仕事を変えたというより、
30年近くやってきた仕事を、とんでもない速度でできるようにしてくれた。
そんな感覚の方が近い。
そして、僕自身もそろそろ、この仕事を次の世代へどう残すかを考える年齢になった。
業務の手順だけを残しても、おそらく意味がない。
「この会社ではこうしてください」
だけでは足りない。
なぜ、僕はそう判断したのか。
なぜ、この会社には金がなくても付き合おうと思ったのか。
なぜ、この商品は売れると思ったのか。
なぜ、ホームページにこの情報を載せなかったのか。
なぜ、この会社にはこの方法を勧めたのか。
そういう「判断した理由」を、できるだけAIを使って言葉にして残すようにしている。
僕と同じ答えを出してほしいわけではない。
僕が何を見て、何を考えて、その答えを出したのか。
そこを残したい。
運は、そこら中に転がっている
結局、30年近く商売をやってきても、僕には成功の法則なんて分からない。
運が良かった。
本当にそう思っている。
ただ一つだけ言えるとしたら、
運というものは、案外そこら中に転がっている。
問題は、それがピカピカ光った「幸運」という姿で転がっているわけではないということだ。
金のない会社かもしれない。
まだ誰も知らない商品かもしれない。
一見すると儲からない顧客かもしれない。
あるいは、突然現れたAIという訳の分からない技術かもしれない。
それを、
「自分には関係ない」
と通り過ぎるのか。
「ちょっと待てよ。これ、面白いんじゃないか?」
と立ち止まるのか。
僕がやってきたことなんて、案外それだけなのかもしれない。
そして30年前、何者でもなかった僕を見つけてくれた、あの部長のように。
今度は僕が、誰かの前に転がっている運を、一緒に拾う側でありたいと思っている。
