3行でいうと

  • 「AI法」は、AIを使う人や会社を取り締まる法律ではなく、国の計画と司令塔を決めた法律。
  • 全28条の中に、罰則の章や、違反した人を罰する条文は見当たらなかった。
  • 動きの中心は、法律にもとづく人工知能基本計画と指針。第Ⅱ期の基本計画は2026年7月14日に閣議決定された。
  • 見立てでは、普通の人や小さな会社に新しい義務を直接課す法律には見えない。

この記事は、法律の本文(e-Gov法令検索)と、内閣府の公式ページを読んでまとめたものです。法律の内容を紹介する記事であり、法的な助言ではありません。自分や会社の個別の場面にどう当てはまるかは、弁護士などの専門家に相談してください。僕らの考えは「見立てです。」と分けて書きました。

先に結論

何が起きているか(日付つき)

内閣府のページと、法律本文の附則から日付を拾いました。

日付 できごと 確かめた先
2025年6月4日(令和7年) 法律が公布され、一部が施行 e-Gov法令検索、内閣府
2025年9月1日 全面施行。AI戦略本部の設置などが始まる 内閣府(2つのページ)
2025年9月12日 人工知能戦略本部の初会合 内閣府
2025年12月19日 「適正性確保に関する指針」を本部が決定 内閣府
2025年12月23日 最初の「人工知能基本計画」を閣議決定 内閣府
2026年7月14日 基本計画の第Ⅱ期を閣議決定 内閣府
2026年9月18日 令和9年度予算の概算要求の中のAI関連予算を公表 内閣府「AI戦略」ページの最近のトピックス

「公布」は、法律を世に公表することです。「施行」は、法律が実際に効力を持ち始めることです。「閣議決定」は、内閣(総理大臣と大臣たち)が会議で正式に決めることです。

一部施行と全面施行が分かれている理由は、附則の第1条に書かれています。公布の日から施行するのが原則ですが、第三章(人工知能基本計画)と第四章(人工知能戦略本部)などは、公布から3か月を超えない範囲で政令(内閣が出すルール)で決める日から施行する、とされています。内閣府の2つのページはどちらも、全面施行を2025年9月1日と書いています。この日を指定した政令の番号は、読んだページには書かれておらず、確認できていません。

原典を読む:法律には何が書いてあるか

目的と考え方(第1条〜第3条)

第1条は目的です。AI関連の技術が日本の経済や社会の土台になる技術であることを踏まえて、基本理念、基本計画、本部の設置を定め、施策を総合的・計画的に進めることを目指す、という趣旨です。

第3条の基本理念は5項あります。ほぼ言い換えると、次のとおりです。

  • AIは行政や事業の効率を大きく上げ、新しい産業を生む技術であり、安全保障の面でも重要。だから日本として研究開発の力を持ち、産業の国際競争力を高める(第2項)。
  • 基礎研究から暮らしの中での活用まで、各段階の取り組みを総合的に進める(第3項)。
  • 不正な目的や不適切な方法で研究開発や活用が行われると、犯罪への利用、個人情報の漏えい、著作権の侵害などを助長するおそれがある。だから、過程の透明性の確保など、必要な施策を講じなければならない(第4項)。
  • 国際的な協調のもとで進め、国際協力で主導的な役割を果たすよう努める(第5項)。

第4項に、リスクへの目配りが書かれています。この法律は「進める」と「適正に行う」の両方を理念にしています。

誰が何をするか(第4条〜第9条)

条 主体 書かれていること(言い換え)
第4条 国 施策を総合的・計画的に作り、実施する責務。国の行政機関でのAI活用も進める
第5条 地方公共団体 地域の特性を生かした施策を自主的に作り、実施する責務
第6条 研究開発機関(大学など) 研究開発、成果の普及、人材育成に努め、国や自治体の施策に協力するよう努める
第7条 活用事業者(AIを事業に使う、または使った製品やサービスを出す者) 自らAIの活用に努め、国や自治体の施策に協力しなければならない
第8条 国民 AIへの理解と関心を深め、施策に協力するよう努める
第9条 国 国、自治体、研究機関、事業者の連携を強める施策を講じる

条文の書き方に違いがあります。第7条の事業者は「協力しなければならない」、第8条の国民は「協力するよう努める」です。ただ、協力しなかった場合の罰則や制裁は、この法律の条文にはありません。この言葉の違いが現実にどんな意味を持つかは、解釈の問題になるので、ここでは断定しません。

国が講じる施策(第10条〜第17条)

見出しだけ並べると、法制上・財政上の措置、研究開発の推進、施設や設備(計算機や、データの集まり)の整備と共用、適正性の確保、人材の確保、教育の振興、調査研究、国際協力です。

とくに、暮らしに近い2か条を挙げます。

  • 第13条「適正性の確保」:国は、AIの研究開発と活用が適正に行われるよう、国際的な規範の趣旨に沿った「指針」を整えるなどの施策を講じる。
  • 第16条「調査研究等」:国は、国内外の動向の情報収集や、不正な目的や不適切な方法でAIを使って国民の権利利益が侵害された事案の分析と対策の検討などを行い、その結果にもとづいて、研究機関や事業者などに対する指導、助言、情報提供などの措置を講じる。

第16条は、国が「指導、助言、情報提供」をできる、と書いています。条文にあるのはこの範囲です。それ以上の権限が定められているかどうかは、この法律の条文からは見つけられませんでした。

計画と司令塔(第18条〜第28条)

第18条は、政府が「人工知能基本計画」を定めること、計画に基本方針、政府が講ずべき施策などを入れること、案を人工知能戦略本部が作り、総理大臣が閣議決定を求め、決まったら遅れずに公表することを定めています。

第19条以下は、内閣に置く人工知能戦略本部の話です。本部長は内閣総理大臣(第22条)、副本部長は内閣官房長官とAI戦略担当大臣(第23条)、本部員はそれ以外の全ての国務大臣(第24条)。事務は内閣府が処理します(第26条)。

附則の第2条には、政府が、国際的な動向や社会経済の変化を踏まえて法律の施行状況を検討し、必要なら措置を講じる、とあります。つまり、法律そのものも見直す前提で作られています。

法律の下で動いている2つの文書

適正性確保に関する指針(2025年12月19日)

第13条にもとづく文書で、正式名は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」です。人工知能戦略本部が令和7年12月19日に決めました。

内閣府の資料によると、目的は、事業者や国民など全ての主体の「自主的かつ能動的な取組」を促すことです。適正性について、ひとつの定義や絶対的な水準は決めず、各主体が自分の立場やAIの特性に応じて取り組む考え方です。研究開発機関と活用事業者の項目には、AIガバナンス(社内の管理の仕組み)、透明性、安全性の確保などが挙がっています。国民には、法令を守ること、AIの出力の出所や正確さを理解して人が判断すること、などです。

指針の本文には、法的拘束力の有無を直接述べた記述は見当たりませんでした。拘束力の有無は、僕らの側では断定しません。

人工知能基本計画(最初は2025年12月23日、改訂は2026年7月14日)

最初の計画は、内閣府の発表によると日本で初めてのAIの国家戦略で、目標は「世界で最もAIを開発・活用しやすい国」になることです。3つの原則(イノベーション促進とリスク対応の両立、アジャイルな対応、内外一体での政策推進)と、4つの基本方針があります。

  1. AIを使う(AI利活用の加速的推進)
  2. AIを創る(AI開発力の戦略的強化)
  3. AIの信頼性を高める(AIガバナンスの主導)
  4. AIと協働する(AI社会に向けた継続的変革)

2026年7月14日の第Ⅱ期計画は、内閣府の概要資料と本文の冒頭によると、4つの柱を引き継ぎながら、「エージェント型AI」(人の代わりに自分で段取りして動くAI)の広がりや、それに伴うリスクの変化を理由に改訂されています。計画は「当面は毎年変更を行う」とされています。ほかに、AI法を含む制度や指針を、各府省庁が自主点検して見直す仕組みをつくること、知的財産の保護、責任の分け方、声の無断利用などに関する検討を進めることが書かれています。

計画の細かな施策や数値は、本文が長いので、この記事では詳しく読んでいません。気になる人は内閣府の「AI戦略」ページから本文を読んでください。

くらしや仕事への影響

見立てです。この法律は、普通の人や小さな会社に、新しい義務や手続きを直接課すタイプの法律には見えません。条文から読み取れる範囲では、国と自治体が主役で、民間には「協力」と「理解」を求める形です。

見立てです。ただし、影響がないわけではないと思います。指針や基本計画は、のちに各府省庁のガイドラインや補助金、調達(役所が何を買うか)の考え方に反映されていくことがあります。総務省・経済産業省のAI事業者ガイドラインも、内閣府の指針の関連資料として並んでいます。会社でAIを使う人は、「法律で禁止されていないから自由」とも「法律ができたから新しい義務が生じた」とも決めつけず、自社に関係する分野の法律(個人情報、著作権など)と、関係省庁のガイドラインを、あわせて見るのが落ち着いた読み方だと思います。

見立てです。「毎年見直す」と書かれている以上、今日の内容が来年も同じとは限りません。仕事で使う人は、日付を確かめて読んでください。

気をつけること

出典

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