3行でいうと
- パスワードは、できるだけ長く、使い回しません。定期的な変更は基本は要りませんが、流出がわかったらすぐ変えます。
- パスワードに確認コードなどを足す多要素認証を設定します。SMSより、認証アプリやセキュリティキーが勧められています。
- パスキーは、指紋や顔、画面ロックでログインする新しい方法です。サービス側の対応が必要で、使えるところから増やします。
- どの方法でも、確認コードを人に教えない、偽サイトに入力しない、が前提です。
この記事は、公式・一次資料(官公庁、標準化団体、各社の公式ヘルプ)を読んでまとめたものです。この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。画面の名前は、公式ページの表記です。
先に結論
- パスワードは、できるだけ長く、使い回さない。IPAも国のハンドブックも、そう書いています。定期的な変更は、基本は要りません。流出がわかったときは、すぐ変えます。
- パスワードだけに頼らず、確認コードなどを足す「多要素認証」を設定します。足す方法の中では、SMSで届くコードより、認証アプリやセキュリティキーのほうが勧められています。
- パスキーは、パスワードの代わりになる新しいログイン方法です。指紋、顔、端末の画面ロックで入ります。IPAも利用を勧めていますが、サービス側の対応が必要です。使えるところから、増やしていきます。
- どの方法でも、確認コードを人に教えない、偽サイトに入力しない、が前提です。
何が問題なのか
IPAの「安心相談窓口だより」(2025年8月28日)によると、2025年7月に寄せられた不正ログインの相談は144件で、これまでで最も多い件数でした。多くは、InstagramやFacebookなどにログインされ、自分ではログインできなくなったという相談です。
IPAは、IDとパスワードが漏れる主な経路を、次の3つに整理しています。
- 単純なパスワードを、推測される。
- 別のサービスから漏れたパスワードを、試される。
- フィッシングサイト(本物そっくりの偽サイト)にだまされて、IDとパスワードを入力してしまう。
また、Instagramの事例では、知人になりすました相手からのメッセージをきっかけに、電話番号と認証コードを教えてしまい、アカウントを乗っ取られる流れが多く確認された、とあります。
AIのアカウントも例外ではありません。見立てです。チャットAIのアカウントには、会話の履歴や、場合によっては支払いの情報があります。乗っ取られれば、中身を見られたり、有料の機能を使われたりするおそれがあります。
第1の鍵:パスワード
公式に書かれていること
IPAの「不正ログイン対策特集ページ」(最終更新2023年9月29日)と、2025年の注意喚起は、パスワードを「できるだけ長く」「複雑で」「使い回さない」ものにするよう勧めています。
国家サイバー統括室(以前はNISC)の「インターネットの安全・安心ハンドブック」(Ver 5.10、令和7年3月11日)の第5章には、次の趣旨が書かれています。
- 辞書にある単語、自分に関係の深い言葉、よく使われるパスワードは避ける。
- 他のサービスと使い回さない。使い回すと、1か所の流出で、ほかのサービスにも入られる。
- 定期的な変更は、基本は必要ない。決まった周期で変えさせると、パスワードがワンパターンになったり、使い回しが起きたりする、という説明がある。ただし、流出したことが分かったり、乗っ取られたりしたときは、すぐに変更する。
- 保管の方法として、パスワード管理アプリ、紙のノート、暗号化した記憶装置などが紹介され、それぞれの長所と短所が整理されている。ブラウザへの保存については、席を離れたすきに使われたり、パソコンが攻撃されたときに根こそぎ盗まれたりするおそれがある、と注意が書かれている。
数字の目安:米国の技術基準
日本の資料には、「何文字以上」という具体的な数字が、僕らが読んだ範囲では書かれていませんでした。参考として、米国のNIST(国立標準技術研究所)の文書を読みました。「SP 800-63B」(デジタル認証の技術要件、第4版)です。この文書は、サービスを作る側に向けた基準で、一般の利用者向けではありません。内容は、次のとおりです(言い換えです)。
- パスワードだけで本人確認をする場合は、最低15文字を求める。
- 多要素認証の一部として使う場合は、最低8文字まで短くしてよい。
- サービス側は、64文字以上まで入力できるようにする。
- 「大文字と数字と記号を混ぜる」といった組み合わせの規則は、課さない。
- 定期的な変更は、求めない。ただし、漏れた証拠があるときは変更させる。
見立てです。数字と日本の資料の方向(長く、使い回さない、定期変更は不要)は一致しています。一方、各サービスの入力画面の規則は、サービスごとに違います。使えるなら、長いほうを選ぶのが無難だと思います。
使い回さないためには
ハンドブックには、パスワード管理アプリが、サービスごとに別々の長いパスワードを自動で作って保管してくれる、とあります。この記事では、個別の製品を確かめていません。IPAの2つのページには、管理アプリの記載を見つけられませんでした。
第2の鍵:確認コード(2段階認証・多要素認証)
言葉の整理
- 多要素認証:「知っているもの(記憶)」「持っているもの」「本人の体(生体)」のうち、2つ以上を組み合わせる方法。IPAの説明です。
- 二段階認証:2回確認するが、同じ種類の確認を2回やるだけの場合もあり、多要素より弱くなりうる。国のハンドブックの説明です。
多要素認証の利点は、IDとパスワードが漏れても、それだけではログインできないことです。
方式によって強さが違う
国のハンドブックは、多要素認証の確認方法を、次のように分けています。
| 方式 | ハンドブックの扱い(言い換え) |
|---|---|
| 認証アプリが作る1回限りのコード | 基本的に推奨できる |
| USBセキュリティキー(物理的な鍵) | 基本的に推奨できる |
| 指紋認証などの生体認証 | 推奨できる。ただし100%安全とは言えない |
| SMS(電話番号に届くコード) | 推奨できないほうに分類。海外でSIMの乗っ取りで破られた例がある |
| メールで届くコード | 推奨できないほうに分類。送信される経路で奪われるおそれ |
Googleの公式ヘルプも、2つ目の手順として、パスキー、セキュリティキー、認証アプリ、メッセージ、SMS・音声電話、QRコード、バックアップコードを挙げ、SMSなどの電話番号を使う方法は、電話番号を狙った攻撃を受けるおそれがあると書いています。
見立てです。SMSでも、設定がないよりは、はるかに良いと思います。ただ、選べるなら、認証アプリやセキュリティキー、パスキーを選ぶ、という順番になります。
AIサービスでの例(公式ヘルプ)
- ChatGPT(OpenAI):設定の「Security and login」で、認証アプリ、SMSまたはWhatsAppのコード、プッシュ通知、パスキーから選べる。使える方式は、端末、国、プラン、アカウントの作り方で変わる。すべての認証方法を失った場合は、OpenAIのサポートに連絡する。確認に数日かかることがある。
- Claude(Anthropic):ログインの案内ページには、Claudeには専用のパスワードを作れず、メールで届くリンクまたはコード、あるいはGoogleのアカウントでログインする、とあります。このページに、パスキーや2段階認証の記載は見つけられませんでした。見立てです。Googleでログインしている場合は、Google側のアカウントの守りが、そのままClaudeの守りになると思います。
絶対に守ること
- 確認コードや、バックアップコードは、人に教えない。Googleのヘルプは、Googleが電話でコードを確認することはない、と書いています。
- 友人などからのメッセージで、コードや電話番号を求められたら、本人に別の手段で確かめる。IPAが挙げた乗っ取りの流れは、まさにこの形です。
- バックアップコードは、印刷するなどして、安全な場所に保管する。(Googleのヘルプ)
第3の鍵:パスキー
何のことか
パスキーは、パスワードの代わりに、指紋、顔、端末の画面ロックのPINなどでログインする方法です。FIDOアライアンス(この規格をつくる業界団体)は、暗号の鍵のペアを使う方式だと説明しています。
たとえ話です。サービス側には「錠前(公開鍵)」だけを渡し、対応する「鍵(秘密鍵)」は、自分のスマホやパソコンの中に置いたままにします。ログインのたびに、サービスが出す問いかけに、鍵で答える。その鍵を使うときに、指紋や顔で本人確認をします。
Appleの公式ページ(日本語)も、同じ説明です。公開鍵はサーバーに、秘密鍵はデバイスから出ず、サーバー側は秘密鍵を知らない、共有される秘密がない、と書かれています。
何がいいのか
- 入力する秘密がないので、偽サイトに教えてしまうことがない。FIDOアライアンスは、フィッシングへの耐性が設計の中心にある、と書いています。Appleも、認証はサイトやアプリに結びつけられているので、偽サイトに入力しても使えない設計だと説明しています。
- サービス側に、盗まれて使われるパスワードが保管されていないので、サービスの情報漏えいで、パスワードが流出することがない。(FIDOアライアンス)
- 生体情報は端末の中に残り、サーバーには「確認できた」という結果だけが送られる。(FIDOアライアンス、Google)
IPAも、パスワードに代わる認証方法として、パスキーの利用を勧めています。
注意点:公式ヘルプに書かれていること
- 同期とバックアップ:パスキーは、Appleのパスワードとキーチェーン(iCloudキーチェーン)や、他社の管理アプリを通じて、複数の端末に同期できます。FIDOアライアンスによれば、同期されたパスキーはエンドツーエンドで暗号化されます。一方、1台の端末にだけ置くタイプ(セキュリティキーなど)もあります。OpenAIのヘルプは、1台だけに保存されたパスキーは、その端末をなくすと使えなくなるおそれがある、と注意しています。
- Appleの復旧:iCloudキーチェーンを復旧するには、Apple Accountの情報、登録した電話番号に届くSMS、端末のパスコードが必要です。パスコードを10回間違えると、復旧用の記録が破棄される、と書かれています。復旧用の連絡先は任意ですが、設定しておくと備えになります。
- Googleの注意:共有の端末では、パスキーを作らない。端末のロックを解除できる人は、アカウントに入れてしまうからです。新しいパスキーが使えるようになるまで、最大7日かかることがある。不審なパスキーは、Googleが無効にして通知する。通知から30日以内に確認する必要がある。
- 対応環境(Google):パソコンはWindows 10、macOS Ventura、ChromeOS 109以降。スマホはAndroid 9以降、iOS 16以降。ブラウザはChrome 109、Safari 16、Edge 109、Firefox 122以降。画面ロックをオンにする必要がある。英語版のヘルプで確認しました(日本語版は2026年10月8日に確認したものです)。
- パスワードが残る場合がある:OpenAIのヘルプでは、パスキーがログインの初期設定になっても、「別の方法を試す」を選べばパスワードでも入れる、とあります。パスキーを作っても、パスワードがなくなるとは限りません。パスワードの守りは、続けて必要です。
- サービスの対応:パスキーはサービス側の対応が必要です(IPA)。アカウントの作り方によっては、使えない場合もあります(OpenAIのヘルプ)。
今日からできるチェックリスト
優先順位をつけた、僕らの整理です。
- メールのアカウント(Googleなど)。他のサービスの再設定の入口になるので、最優先。パスワードを長くし、使い回さず、多要素認証かパスキーを設定する。
- AIのアカウント(ChatGPT、Claude、Geminiなど)。パスワードの使い回しをやめる。Claudeのようにログインの仕組みが別のアカウントに頼るものは、そちらを守る。
- お金に関わるアカウント(カード、銀行、通販、アプリの課金)。
- 多要素認証は、選べるなら、認証アプリかパスキー、セキュリティキーを選ぶ。SMSは次善。
- パスキーが使えるサービスで、1つずつ作る。ほかの端末でも使うなら、同期の仕組みと復旧の手順を確かめてから。
- 確認コードを人に教えない。メッセージで「コードを教えて」と言われたら、断る。
- バックアップコードや復旧用の情報を、安全な場所に保管する。
- 「流出していた」という通知が来たら、そのパスワードと、同じものを使ったすべてのサービスを、すぐに変える。
気をつけること
- この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。この記事は、公式・一次資料を読んでまとめたものです。画面の名前は、公式ページの表記で、最新の画面と違うことがあります。
- IPAの特集ページは、最終更新が2023年9月29日で、パスキーの記載はありません。パスキーの推奨は、2025年8月28日の「安心相談窓口だより」の記述です。
- 国家サイバー統括室のハンドブックは、Ver 5.10(令和7年3月11日)の第5章を読みました。章全体を読み切れていません。ハンドブックは、パスワード管理アプリの個別の製品を推奨していません。
- NISTの数字は、米国の技術基準で、日本の公式な推奨ではありません。サービスの運営側向けの文書です。
- FIDOアライアンスのページにある統計は、数字の出どころが企業や調査会社のため、この記事では使っていません。
- Googleのヘルプの内容は、Googleのアカウントについてのものです。他のサービスは、各サービスのヘルプで確かめてください。
- ClaudeやGeminiのアカウントで、パスキーや多要素認証を直接設定できるかは、確認できていません。
出典
- 不正ログイン対策特集ページ(IPA 独立行政法人情報処理推進機構、2026年10月23日確認)
- インターネットサービスへの不正ログインによる被害が増加中(IPA 情報セキュリティ安心相談窓口だより、2026年10月23日確認)
- インターネットの安全・安心ハンドブック Ver 5.10 掲載ページ(国家サイバー統括室、2026年10月23日確認)
- インターネットの安全・安心ハンドブック 第5章(国家サイバー統括室、2026年10月23日確認)
- Passkeys(FIDO Alliance、2026年10月23日確認)
- パスキーでログインする(Google アカウント ヘルプ、2026年10月8日確認)
- Sign in with a passkey instead of a password(Google Account Help、2026年10月23日確認)
- 2段階認証プロセスでGoogleアカウントを保護する(Google アカウント ヘルプ、2026年10月23日確認)
- パスキーのセキュリティ(Apple サポート、2026年10月23日確認)
- Apple Accountの2ファクタ認証(Apple サポート、2026年10月8日確認)
- Passkeys to secure your OpenAI account(OpenAI Help、2026年10月23日確認)
- Managing multi-factor authentication (MFA)(OpenAI Help、2026年10月23日確認)
- Log in to your Claude account(Claude Help Center、2026年10月23日確認)
- NIST SP 800-63B-4 Digital Identity Guidelines: Authentication and Authenticator Management(NIST、2026年10月23日確認)
更新履歴
-
2026年10月25日 書き方を直しました。
- 前:運営者が使っていないと読める書き方 → いま:「この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません」。公式の資料を読んでまとめた記事で、使い心地は書いていない、という意味に直した
-
2026年10月23日 公式の資料を読み直して、次の点を直しました。
- 前:Googleのパスキーの対応環境は、日本語版と英語版の両方で確認しました → いま:英語版のヘルプで確認しました(日本語版は2026年10月8日に確認したものです)
- 一部の出典は読めなかったため、その部分は前のままです。
