3行でいうと
- 2025年版の10項目は、プロンプトインジェクション、機密情報の漏えい、サプライチェーンなど。公式は各項目に対策を挙げている。
- 公式の対策には、AIの出力を信用しない、権限を最小にする、重要な操作は人が承認する、が何度も出てくる。
- 2026年版が2026年8月〜9月に公表された。公式の発表で確かめられたのは、順位の更新と「過剰な権限」が3位になったこと。
この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。この記事は、公式の文書を読んでまとめたものです。なお、ここで扱うのは安全対策の考え方の紹介で、個別のシステムの安全性を保証するものではありません。実際の設計や監査は、セキュリティの専門家に相談してください。
先に結論
- OWASPの2025年版は、10項目すべてに公式ページがあり、説明と「防ぐ・和らげる方法」が書かれています。
- 10項目を読むと、同じ考え方が繰り返されます。公式ページの言い方では、モデルを「信頼できない利用者」として扱うこと、モデルに渡す権限を最小にすること、危険の大きい操作は人が承認すること、の3つです。
- 2026年版が出ています。ただし、僕らは2026年版の本文(PDF)を開けませんでした。項目名と順位は、公式の発表と、第三者の解説を読んで確認した範囲に限ります。
前提:何の文書か、用語
- OWASPは、ウェブやソフトウェアの安全について、無料で公開される指針を作る非営利団体です。現在は「OWASP GenAI Security Project」という名前で、生成AIの安全も扱っています。
- LLMは、文章を読み書きする大規模言語モデル(ChatGPTやClaudeの中身にあたるもの)のことです。
- LLMアプリは、LLMを部品として組み込んだ、社内ボットや問い合わせ対応、文書検索、AIエージェントなどのことです。
- プロンプトは、AIに渡す指示や文章。システムプロンプトは、アプリを作った側があらかじめ書いておく、AIの役割や決まりごとの指示です。
- この文書は「規則」ではなく「危険の一覧」です。法律や認証の要件ではありません。
10の危険を、普通の言葉で(2025年版)
各項目の名前と中身は、公式の各ページ(genai.owasp.org)で読みました。
LLM01 プロンプトインジェクション
AIに渡される文章が、作り手の意図しない形でAIの動きを変えてしまう問題です。公式ページは2種類に分けています。
- 直接:利用者の入力が、そのままAIの動きを変える。
- 間接:AIが読み込んだ外部の内容(ウェブページやファイル)に仕込まれた文章が、AIの動きを変える。
人間には見えない形の入力でも、モデルが読み取れるなら影響しうる、とも書かれています。RAG(回答の前に、社内文書などを検索して材料にする仕組み)やファインチューニング(追加学習)でも、完全には防げないとされています。
対策として、公式ページは次を挙げています。
- システムプロンプトで役割や限界を決める。
- 出力の形を決め、決まりきったプログラムで検査する。
- 入力と出力にフィルターをかける。
- 最小権限にする。道具を使う機能は、AIに直接持たせずアプリ側のコードで扱う。
- 危険の大きい操作は、人の承認を必須にする。
- 外部から来た信用できない内容を、分けてはっきり表示する。
- 敵対的なテストを定期的に行い、モデルを「信頼できない利用者」として扱う。
LLM02 機密情報の漏えい
個人情報、財務情報、健康情報、社内の機密、認証情報、法務文書などが、AIの出力を通じて出てしまう問題です。公式ページは、学習や追加学習に使った機密、アプリがつなぐ外部データの両方を想定しています。
対策には、データの洗い出しと伏せ字化、入力の検査、アクセス制御(最小権限)、利用者への注意喚起と保存方針の公開、学習に使わせない選択肢の用意、などが挙がっています。差分プライバシー(個々のデータが特定されにくいよう、わざと雑音を混ぜる手法)や、連合学習(データを1か所に集めずに学習する手法)も紹介されています。
LLM03 サプライチェーン
サプライチェーンは、ここでは「自分で作っていない部品への依存」のことです。他人が作った学習済みモデル、データセット、ライブラリ、配布場所が対象です。公式ページは、通常のソフトウェアの弱点に加えて、第三者のモデルやデータが改ざん・汚染されうることを挙げています。
対策は、提供元の審査と再点検、古い部品の更新、第三者モデルを自分の用途で試験すること(公開された性能の数字は操作されうる、との注意つき)、部品表(SBOM、使っている部品の一覧)の管理、ライセンスの棚卸し、署名やハッシュ(ファイルの指紋)による入手元と改ざんの確認、などです。
LLM04 データとモデルの汚染
事前学習、追加学習、埋め込みのデータに、わざと悪い内容を混ぜ、弱点や裏口(特定の言葉で動き出す仕掛け)、偏りを作る攻撃です。外部のデータを使うほど危険が高い、とされています。共有サイトのモデルには、悪意あるコードが仕込まれることもあると書かれています。
対策は、データの出所と加工の記録、データ提供元の審査、未検証のデータの隔離、データのバージョン管理、攻撃を想定した試験(レッドチーム)、学習中の指標の監視などです。
LLM05 不適切な出力の扱い
AIの出力を、検査や無害化をせずに、後ろの仕組み(画面、データベース、他のシステム)に渡してしまう問題です。AIの出力は、プロンプトによって左右されうるので、結果としてAIを通じて追加の機能に触れられてしまう、と公式ページは説明します。起こりうる被害として、XSS(ページに悪い命令を紛れ込ませる攻撃)、SSRF(サーバーに別のサーバーへ勝手にアクセスさせる攻撃)、権限の昇格、バックエンドでの遠隔コード実行などが挙がっています。
対策は、AIを「信頼できない利用者」として扱う(公式は「ゼロトラスト」と表現)、出力を使う場所に合わせたエンコード、データベース操作にはパラメータ化クエリ、CSP(ブラウザに実行を許す範囲を絞る設定)、出力のログと監視です。
LLM06 過剰な権限
AIに、外部の機能(公式は「ツール、スキル、プラグイン」など呼び方は会社ごとに違う、と書いています)を呼び出す力を持たせると、AIの間違いや乗っ取りが、実際の被害につながります。原因として、公式ページは3つを挙げています。
- 機能が多すぎる
- 権限が大きすぎる
- 自律性が高すぎる(人が確認せずに動く)
対策は、AIに渡す機能を最小にする、「任意のシェルコマンドを実行」のような何でもできる機能を避ける、下流のシステムに渡す権限を最小にする、利用者本人の権限で動かす、影響の大きい操作は人が承認する、権限の確認はAIに頼らず下流のシステムで行う、です。ログ・監視・回数制限は、防ぐのではなく被害を小さくする役目だ、と明記されています。
LLM07 システムプロンプトの漏えい
システムプロンプトに、知られてはいけない情報が書かれていて、それが見つかってしまう問題です。公式ページは、システムプロンプトを「秘密」や「安全装置」とみなさないこと、と述べています。パスワードや接続情報を書いてはいけない、本当の問題は、権限の管理をAIに任せていることだ、という趣旨です。
対策は、機密をプロンプトの外に置く、重要な制御をプロンプトに頼らず外側のシステムで行う、AIとは別の仕組みで出力を検査する、権限の確認を決まりきったプログラムで行う、です。
LLM08 ベクトルと埋め込みの弱点
埋め込みは、文章を数字の並び(ベクトル)に変えたものです。RAGでは、この数字を使って関連する文書を探します。公式ページは、その作り方・保存・検索の弱点が、悪い内容の混入、出力の操作、機密の読み取りにつながると説明します。リスクとして、権限のないアクセス、別の文脈への情報漏れ、埋め込みから元の文章を復元される攻撃、汚染、動作の変化が挙がっています。
対策は、権限を考慮できる検索基盤(利用者グループごとにデータを厳密に分ける)、知識ベースに入れるデータの検証と出所の確認、データの分類、検索の記録の保存です。
LLM09 誤情報
AIが、もっともらしいが間違っている内容を出す問題です。原因の中心はハルシネーション(もっともらしい作り話)で、学習データの偏りや不足、そして利用者が確認せずに信じる「過信」が被害を広げる、とされています。
対策は、RAGで信頼できる情報に結びつける、人による確認と相互検証、重要な出力の自動検証、リスクの周知、AI生成物であることの表示、利用者教育などです。
LLM10 際限のない消費
利用者が、AIに無制限に処理をさせられてしまう問題です。処理が重い(クラウドではお金がかかる)ため、サービス停止、金銭的損害、モデルの盗用につながります。公式ページの例が2つあります。
- Denial of Wallet(財布への攻撃):従量課金の仕組みを狙い、大量の処理で費用をふくらませる。
- モデル抽出:細工した質問を重ねて出力を集め、モデルの一部を複製する。
対策は、入力サイズの制限、回数制限と上限、1人や1リクエストが資源を使いすぎないようにする、タイムアウト、確率の詳細(ロジット)をAPIで出しすぎない、使用量の監視、アクセス制御などです。
2026年版で変わったこと
2026年版:公式の発表で確認できたことと、できなかったこと
公式の資料で確認できたこと
- OWASP GenAI Security Projectの発表(日付は2026年9月1日、本文は9月2日)は、「2026年版 LLMアプリのトップ10」を公表したと述べています。
- 発表は、順位の更新、脅威の範囲の拡大、実際のAI安全上の事故の調査との照合、NIST・MITRE ATLAS・CWE・同プロジェクトの「Agentic Applications(AIエージェント)向けトップ10」への対応づけの拡大を挙げています。
- 発表の中で名前が挙がった順位は、Excessive Agency(過剰な権限)が「3位」であることだけです。
- 2026年版の配布ページの日付は2026年8月3日です。配布リンクは、僕らが開いたところ「アクセス権限がない」と表示され、本文は読めませんでした。
- 10月23日に配布ページを読み直しましたが、読めたのは説明文とダウンロードの案内までで、10の項目名は載っていませんでした。ダウンロードのリンクが今開けるかは、確かめていません。
第三者の解説で読んだこと(公式で確かめていません)
次の一覧の項目名と順位は、2つの第三者の解説(Cloud Security Allianceの調査ノート、Superblocksのブログ)が一致して載せていたものです。「2025年版との関係」の列は、順位の移動を全項目について書いていたSuperblocksに主に基づきます。公式の本文で確かめていないので、参考として読んでください。
| 順位 | 2026年版の名前(解説による) | 2025年版との関係(解説による) |
|---|---|---|
| 1 | Prompt Injection | 変わらず |
| 2 | Sensitive Information Disclosure | 変わらず |
| 3 | Excessive Agency | 6位から上昇 |
| 4 | Supply Chain | 3位から |
| 5 | Data and Model Poisoning | 4位から |
| 6 | Unbounded Consumption | 10位から上昇 |
| 7 | Misinformation | 9位から上昇 |
| 8 | Hidden Context Exposure | System Prompt Leakageから、Superblocksは「改名」、CSAは「置き換え」と書く。範囲は広がったとされる |
| 9 | Vector and Embedding Weaknesses | 8位から |
| 10 | Improper Output Handling | 5位から |
2つの解説は、順位づけに「専門家の合意」を75%、「6,639件の実際の事故の分析」を25%の重みで使ったとも書いています(Cloud Security Allianceの調査ノート)。これも公式の本文では確認できていません。
読み方・選び方
見立てです。10項目の対策を並べると、「AIが間違えても、乗っ取られても、被害が広がらない作りにする」という方向で、繰り返し同じ手が出てきます。権限を最小にする、重要な操作は人が承認する、権限の確認はAIでなくプログラムで行う、の3つです。これは、AIの賢さを上げる話ではなく、AIの周りの設計の話です。
見立てです。仕事で使う場面ごとに、重い項目は違うと思います。
| 使い方 | 先に読むと役立ちそうな項目 |
|---|---|
| 社内文書を検索して答えさせる(RAG) | LLM02、LLM08、LLM01(間接) |
| 外部のウェブやメールを読ませる | LLM01(間接)、LLM05 |
| AIに操作(送信、更新、購入)をさせる | LLM06、LLM01、LLM05 |
| 外部のモデルやライブラリを組み込む | LLM03、LLM04 |
| 利用者に公開するサービス | LLM10、LLM07、LLM09 |
見立てです。使っているだけの人(開発者でない人)にも、役に立つ部分はあります。AIに読ませるファイルやウェブページに書かれた文章が、AIの動きを変えうる(間接のプロンプトインジェクション)ことは、LLMを使う側の注意点です。AIに大きな権限(メール送信、ファイル削除など)を渡すときに、人の承認を残すのは、公式の対策そのものです。
よくあるつまずき
見立てです。
- 「システムプロンプトに『絶対に教えるな』と書いたから大丈夫」と考える。公式は、システムプロンプトを秘密や安全装置とみなさないよう述べています。
- 「RAGを入れたから誤情報も攻撃も減る」と考える。公式は、RAGがプロンプトインジェクションを完全には防がないと述べ、一方で誤情報への対策としては挙げています。目的で効き方が違います。
- 権限の確認をAIにさせる。公式は、権限の確認は下流のシステムやプログラムで行うよう述べています。
- 一覧を「全部満たせば安全」の確認表にする。公式文書は危険の一覧で、満たせば安全という保証ではありません。
気をつけること
- この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。公式ページの説明をまとめたものです。
- 各項目の説明は、公式の各ページの本文を読んで要約しました。対策の数や順序は、ページの全文ではなく要点です。細部は公式ページを見てください。
- 2026年版の本文は読めていません。項目名と順位は、第三者の解説に頼っています。2026年版を使う場合は、公式の資料で確認してください。
- 2025年版のページは、今も公式サイトに載っていますが、最新の版は2026年版になっています。
- 2025年版の公開日は、読んだページに書かれていませんでした。確認できていません。
- この記事は紹介であり、法律や監査上の判断ではありません。実際のシステムの設計や対応は、セキュリティの専門家に相談してください。
- ページの内容は変わることがあります。使う前に最新の公式ページを見てください。
出典
- 2025 Top 10 Risk & Mitigations for LLMs and Gen AI Apps(OWASP GenAI Security Project、2026年10月23日確認)
- LLM01 Prompt Injection(OWASP GenAI Security Project、2026年10月23日確認)
- LLM02:2025 Sensitive Information Disclosure(OWASP GenAI Security Project、2026年10月8日確認)
- LLM03:2025 Supply Chain(OWASP GenAI Security Project、2026年10月8日確認)
- LLM04:2025 Data and Model Poisoning(OWASP GenAI Security Project、2026年10月8日確認)
- LLM05:2025 Improper Output Handling(OWASP GenAI Security Project、2026年10月8日確認)
- LLM06:2025 Excessive Agency(OWASP GenAI Security Project、2026年10月23日確認)
- LLM07:2025 System Prompt Leakage(OWASP GenAI Security Project、2026年10月8日確認)
- LLM08:2025 Vector and Embedding Weaknesses(OWASP GenAI Security Project、2026年10月8日確認)
- LLM09:2025 Misinformation(OWASP GenAI Security Project、2026年10月8日確認)
- LLM10:2025 Unbounded Consumption(OWASP GenAI Security Project、2026年10月23日確認)
- OWASP GenAI Security Project Unveils 2026 Top 10 for LLM Applications, New Agent Control Standard(OWASP GenAI Security Project、2026年9月、2026年10月23日確認)
- OWASP GenAI LLM Top 10 2026(OWASP GenAI Security Project、2026年10月23日確認)
- OWASP's 2026 LLM Top 10 and New Agent Control Standard(Cloud Security Alliance、第三者の解説、2026年10月23日確認)
- OWASP LLM Top 10 2026: The Full List and What Changed(Superblocks、第三者の解説、2026年10月23日確認)
更新履歴
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2026年10月25日 書き方を直しました。
- 前:運営者が使っていないと読める書き方 → いま:「この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません」。公式の資料を読んでまとめた記事で、使い心地は書いていない、という意味に直した
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2026年10月23日 公式の資料を読み直して、次の点を直しました。
- 前:2026年版の配布ページについての記載なし → いま:読み直したが、10の項目名は載っておらず、ダウンロードのリンクが開けるかは確かめていない
- 前:次の一覧は、2つの第三者の解説が一致して載せていたもの → いま:項目名と順位が一致していたもの。「2025年版との関係」の列は、主にSuperblocksによる
- 前:8位のHidden Context Exposureは、System Prompt Leakageから改名・拡張とされる → いま:Superblocksは「改名」、CSAは「置き換え」と書き、範囲は広がったとされる
