3行でいうと
- NIST AI RMF 1.0(2023年1月)は、ガバナンス・マップ・測定・管理の4機能で整理した、自主的に使う枠組み。
- ISO/IEC 42001(2023年12月)は、AIの「マネジメントシステム」を作り運用する要求事項の規格。ISOのページには認証の記述がない。
- 日本には、総務省・経済産業省のAI事業者ガイドライン第1.2版(2026年3月31日)がある。3つとも、個別の判断は専門家に。
この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。この記事は、公式の文書を読んでまとめたものです。法律・規格の紹介であり、法的助言ではありません。自社に当てはまるか、認証を受けるべきかなどの個別の判断は、弁護士や認証機関などの専門家に相談してください。
先に結論
- 3つの文書は、「AIを使う会社が、リスクをどう管理するか」の型を示す点で共通しています。法律そのものではありません。
- NIST AI RMFは、公式の文書で「自主的に使う(voluntary)」ものとされています。
- ISO/IEC 42001は、組織がAIのマネジメントシステムを「確立し、実施し、維持し、継続的に改善する」ための要求事項を定める規格です。規格の本文は有料で、僕らは本文を読んでいません。日本語版(JIS)の目次は、JSAの公開プレビューで読みました。
- 日本のAI事業者ガイドラインは、事業者の自主的な取組を支える文書だと、概要資料に書かれています。
前提:言葉の整理
- リスク管理は、起こりうる悪い結果を、前もって洗い出し、程度を見て、対応を決めておくことです。
- 枠組み(フレームワーク)は、考える順番や項目の型です。「これをすれば合格」という試験ではありません。
- マネジメントシステムは、方針・役割・手順・記録・見直しの仕組みを、組織として回し続けるための規格の型です。ISOのページでは、42001を「マネジメントシステム規格」と説明しています。
- ガバナンスは、ここでは「誰が責任を持ち、どう決め、どう見直すか」という組織の統治です。
- PDCAは、計画(Plan)、実行(Do)、点検(Check)、改善(Act)を繰り返す方法です。
NIST AI RMF 1.0:中身
出所は、NISTの公式ページと、文書本体(NIST AI 100-1)です。
- 公開は2023年1月26日。NISTのページでは、「intended for voluntary use(自主的な利用を意図)」と書かれています。
- 本文には、「voluntary、rights-preserving(権利を守る)、non-sector-specific(特定の業界向けでない)、use-case agnostic(用途を問わない)」と書かれています。
- 文書には、更新の予定も書かれています。コミュニティからの正式な意見を受けた見直しは、遅くとも2028年までに行う予定、とあります。また、NISTのページには「AI RMF 1.0 は、ホワイトハウスのAI行動計画の一環として改訂中」とも書かれていました。日付や内容はありません。
信頼できるAIの7つの特性
文書は、信頼できるAIの特性として、次を挙げています。
- 妥当で信頼できる(valid and reliable)
- 安全(safe)
- 安全保護と回復力がある(secure and resilient)
- 説明責任と透明性がある(accountable and transparent)
- 説明可能で解釈できる(explainable and interpretable)
- プライバシーが強化されている(privacy-enhanced)
- 公正で、有害な偏りが管理されている(fair, with harmful bias managed)
特性どうしは、時に両立しません。文書は、「高度に安全だが不公正なシステム」などは望ましくない、という趣旨を述べています。
4つの機能
| 機能 | 文書での位置づけ(要約) |
|---|---|
| GOVERN(統治) | リスク管理の文化と、その方針・文書・組織のしくみを作る。他の3つを支える横断的な機能 |
| MAP(把握) | AIシステムのリスクを考える背景(目的、利用場面、影響を受ける人)を整理する。進めるか止めるかの最初の判断にも使う |
| MEASURE(測定) | 定量・定性の方法で、リスクと影響を分析、評価、監視する。展開前と運用中に試験する |
| MANAGE(管理) | 把握・測定したリスクに、優先順位をつけて資源を配り、対応・復旧・連絡の計画を持つ |
文書は、統治の仕組みを作ったあと、多くの利用者はMAPから始めてMEASURE、MANAGEに進む、ただし順番は固定ではなく、繰り返し行き来する、と述べています。各機能は「カテゴリ」と「サブカテゴリ」に分かれています。たとえばGOVERN 1.1は、「AIに関する法令・規制の要求事項が理解され、管理され、記録されている」状態を指します。GOVERN 1.6は、AIシステムの一覧(インベントリ)を持つ仕組みです。
補助資料として、オンラインのPlaybook(実践のための提案集)があります。これも自主的な利用です。
生成AI向けの追加文書:NIST AI 600-1
NISTのページによると、「生成AIプロファイル」(NIST AI 600-1)が2024年7月26日に公開されています。プロファイルは、枠組みを特定の用途や技術に当てはめた文書です。
この文書は、生成AI特有、または生成AIで悪化するリスクを12に分けています。名前は次のとおりです(文書の見出し)。
- CBRN(化学・生物・放射性・核)に関する情報や能力
- 作り話(confabulation。いわゆるハルシネーション)
- 危険・暴力的・憎悪を含む内容
- データプライバシー
- 環境への影響
- 有害な偏りと均質化
- 人とAIの関係の設定(過信や擬人化など)
- 情報の完全性(偽情報・誤情報)
- 情報セキュリティ
- 知的財産
- わいせつ・品位を傷つける・虐待的な内容
- バリューチェーンと構成要素の統合
文書は、これらについて、枠組みのサブカテゴリごとに「提案される行動」の表を載せています。個数は、この記事では数えていません。
ISO/IEC 42001:中身
出所は、ISOの公式ページです。
- 正式な名前は「Information technology — Artificial intelligence — Management system」。第1版が2023年12月に出ました(ページには2023年12月18日)。
- ISOのページは、AIのマネジメントシステム(AIMS)を確立、実施、維持し、継続的に改善するための要求事項を定める、と説明しています。対象は、AIを使った製品やサービスを提供する、または使う組織で、規模は問いません。
- ページは、PDCAの方法を使うと述べています。リスクアセスメントから対応までの構造的な手順にも触れています。
- 紙版は225スイスフランと表示されていました(2026年10月23日確認)。
日本語版(JIS Q 42001:2025)の目次
日本規格協会(JSA)の公開プレビューで、JIS Q 42001:2025(令和7年8月20日制定)を読みました。序文によれば、対応国際規格はISO/IEC 42001:2023で、技術的内容と構成を変えずに作られています。本文の見出し(要約)は次のとおりです。
JIS Q 42001:2025 の目次(要約)
プレビューでは、目次の見出しだけが確認できました。本文の要求事項の細かい文言は読んでいません。
| 箇条 | 内容(見出しの要約) |
|---|---|
| 4 組織の状況 | 組織と状況の理解、利害関係者の要求事項、AIマネジメントシステムの適用範囲 |
| 5 リーダーシップ | 経営層の関与、AI方針、役割・責任・権限 |
| 6 計画策定 | リスクと機会への取組、AIの目的の達成計画、変更の計画 |
| 7 支援 | 資源、力量、認識、コミュニケーション、文書化した情報 |
| 8 運用 | 運用計画と管理、AIリスクアセスメント、AIリスク対応、AIシステムのインパクトアセスメント |
| 9 パフォーマンス評価 | 監視・測定、内部監査、マネジメントレビュー |
| 10 改善 | 継続的改善、不適合と是正処置 |
| 附属書A(規定) | 管理目的と管理策 |
| 附属書B(規定) | AI管理策の実施の手引 |
| 附属書C(参考) | AI関連の潜在的な組織の目的とリスク源 |
| 附属書D(参考) | 複数の領域や分野にわたる利用 |
序文は、AI特有の課題として、判断過程の不透明さ、機械学習による開発手法の変化、継続学習による挙動の変動を挙げ、リスクに基づくアプローチで管理策の水準を決めるとしています。
認証について
見立てです。ISOのページ(42001)には、認証の記述が見つかりませんでした。一方、ISOの別のページに、ISO/IEC 42006:2025があります。題名は、AIマネジメントシステムの「審査と認証を行う機関」への要求事項で、2025年7月7日に発行されています。ISO/IEC 42001に基づく認証の審査をする機関のための規格なので、認証という仕組みがあることを前提にしていると読めます。ただし、認証を受ける手続きや費用は、読んでいません。
日本:AI事業者ガイドライン
総務省・経済産業省のAI事業者ガイドラインは、第1.1版(2025年3月28日)の後、第1.2版が令和8年3月31日(2026年3月31日)付けで出ています。僕らは第1.2版の概要資料と、第1.1版の本文冒頭を取得して確認しました。概要資料によると次のとおりです。
- 事業者の「自主的な取組の支援」「国際的な議論との協調」「読み手にとっての分かりやすさ」を基本的な考え方とし、更新を重ねる「Living Document」とされています。
- 事業者を「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」の3つに分けています。
- 共通の指針は10あります。人間中心、安全性、公平性、プライバシー保護、セキュリティ確保、透明性、アカウンタビリティ、教育・リテラシー、公正競争確保、イノベーションです。
- 指針を作る際に参照した海外文書の中に、NISTのAI RMF 1.0が挙げられています(概要資料の図)。
- AIガバナンスの構築は、ゴール設定、環境・リスク分析、システムデザイン、運用、評価の循環として図示されています。経営層の関与が重視されています。
読み方・選び方
見立てです。3つを同じ棚に置くと、役割は次のように分けて考えられると思います。
| 文書 | 向いている使い方 |
|---|---|
| AI事業者ガイドライン | まず国内の考え方を、自社が開発者・提供者・利用者のどれにあたるかで確認する |
| NIST AI RMF | リスクを洗い出し、測り、対応する流れを、社内の手順に落とす型として使う |
| ISO/IEC 42001 | 方針・役割・記録・内部監査などを、組織の仕組みとして回し、必要なら外部の認証も使う |
見立てです。小さな会社が、最初から規格の全部を満たそうとするのは重いと思います。文書自身も、NISTは「資源や能力に合わせて、カテゴリの一部を選んでよい」という趣旨を書いています。まず、AIシステムの一覧を作る(GOVERN 1.6に相当)、使い方の方針を決める、事故時の連絡先を決める、といった小さな単位から始められそうです。
見立てです。「認証を取ること」と「リスクが管理できていること」は別の話です。認証の有無は、取引先から求められるかどうかで判断することになると思います。
よくあるつまずき
見立てです。
- 「NISTのAI RMFを守らなければいけない」と考える。公式は自主的な利用と書いています。ただし、他の法律や契約で、別に求められることはありえます。
- 一覧のとおりに項目を埋めて、満足してしまう。公式は、反復して見直す枠組みだと述べています。
- 米国の文書だから日本の会社には関係がない、と考える。日本のガイドラインが参照している文書の1つなので、読んでおくと共通の言葉が分かります。
- 生成AIの話だけをして、AI RMFの全体を読まない。生成AI向けの文書は、AI RMFを補う位置づけです。
気をつけること
- この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。公式の文書とページの記述をまとめたものです。
- ISO/IEC 42001の本文は有料のため、読んでいません。要求事項の細かい文言は、ISOのページの説明と、JSAのプレビューの目次に頼っています。
- NISTのページには、AI RMF 1.0が改訂中と書かれています。改訂の時期や内容は確認できていません。
- 日本のAI事業者ガイドラインは、第1.2版の本文を読んでいません。概要資料と、第1.1版の取得資料で確認した範囲です。第1.2版での変更点は、確認できていません。
- ISO/IEC 42005(AIシステムのインパクトアセスメント)は読んでいません。
- EUなど、他の法域の法律との関係は、この記事では扱っていません(EU AI規則は別の記事で扱います)。
- 法律・規格・認証の適用の判断は、専門家に相談してください。
- 価格や日付、版は変わることがあります。
出典
- AI Risk Management Framework(NIST、2026年10月23日確認)
- AI RMF Development(NIST、2026年10月23日確認)
- Artificial Intelligence Risk Management Framework (AI RMF 1.0), NIST AI 100-1(NIST、2026年10月8日確認)
- Artificial Intelligence Risk Management Framework: Generative Artificial Intelligence Profile, NIST AI 600-1(NIST、2026年10月8日確認)
- ISO/IEC 42001:2023(ISO、2026年10月23日確認)
- ISO/IEC 42006:2025(ISO、2026年10月23日確認)
- JIS Q 42001:2025 プレビュー(日本規格協会、2026年10月8日確認)
- AI事業者ガイドライン(第1.2版)概要(総務省・経済産業省、2026年10月23日確認)
- AI事業者ガイドライン(第1.1版)概要(総務省・経済産業省、2026年10月8日確認)
- AI事業者ガイドライン(第1.1版)(総務省・経済産業省、2026年10月8日確認)
更新履歴
-
2026年10月25日 書き方を直しました。
- 前:運営者が使っていないと読める書き方 → いま:「この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません」。公式の資料を読んでまとめた記事で、使い心地は書いていない、という意味に直した
-
2026年10月23日 公式の資料を読み直しましたが、書いてあることに変わりはありませんでした。
