3行でいうと
- 連邦は、法律ではなく大統領令で動いています。2025年12月11日の大統領令14365は、州のAI法に異議を唱える司法省のタスクフォースや、資金の条件づけ、連邦統一の基準づくりを指示しています。州法そのものを無効にする文書ではありません。
- 州は、法律の「型」が3つあります。差別の防止(コロラド)、高性能モデルの透明性(カリフォルニア、ニューヨーク)、禁止行為と州司法長官による執行(テキサス)です。コロラドは2026年に作り直され、施行は2027年1月1日とされています。
- 連邦と州のぶつかり方は、まだ決着していません。FTCは2026年7月に、コロラド州法を例に挙げた政策声明の「案」を出しましたが、案の段階です。商務省の評価や司法省の訴訟は、僕らは確認できていません。
この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。この記事は、2026年10月16日に読んだ公式の文書(大統領令、連邦官報、州の公式ページや法案本文)のまとめです。法律の話ですが、助言ではありません。条文の解釈や、自社への当てはめは、専門家に確認してください。
先に結論
- 連邦。 法律はなく、大統領令(2025年12月11日)が中心です。「米国全体で1つの枠組みにしたい」という方向が書かれ、州法に対する4つの手段(訴訟、資金、FCC、FTC)が並びます。
- 州。 法律を作ったのは州です。ここでは、コロラド、カリフォルニア、テキサス、ニューヨークの4州を、公式ページや本文で読みました。ほかの州は読んでいません。
- 日付。 施行日や期限が近い話が多く、変わりやすい分野です。この記事の日付は、すべて2026年10月16日に確認した時点のものです。
前提:用語をそろえる
- 連邦と州。 米国では、国(連邦)と、各州が、それぞれ法律を作れます。AIについては、連邦の包括的な法律が見つからないぶん、州の法律が先に増えています。
- 専占(プリエンプション)。 連邦の法律が、同じ分野の州法に優先して、州法を無効にすることです。大統領令は法律ではなく、行政の内部への指示です。
- フロンティアモデル。 最先端の、大規模に訓練されたAIです。州法ごとに、計算量などで定義が書かれています。
- ADMT(自動意思決定技術)。 コロラドの新しい法律(後述)が使っている呼び方です。法律上の定義は、僕らは確認できていません。
連邦:法律ではなく、文書で動いている
1. 2025年7月:AI行動計画。 3つの柱(イノベーションの加速、インフラ、国際外交・安全保障)のうち、最初の柱の中に、次の記述があります。AI関連の連邦資金は、負担の重い規制のある州には渡すべきでないが、州は賢明な法律を作る権限を保つべきだ、と書かれています。FCCには、州のAI規則が通信法上の職務を妨げるかの評価を求めています。
2. 2025年12月11日:大統領令14365。 題名は「AIのための国家政策の枠組みを確かめる」といった意味の「Ensuring a National Policy Framework for Artificial Intelligence」です(連邦官報への掲載は12月16日)。内容を表にしました。
| 条 | 誰に | 何を(期限) |
|---|---|---|
| 3条 | 司法長官 | 州のAI法に異議を唱える専任の「AI訴訟タスクフォース」を30日以内に作る |
| 4条 | 商務長官 | 州のAI法の評価を、90日以内に公表する |
| 5条 | NTIAなど | ブロードバンド資金(BEADの非敷設資金)に関する政策通知を90日以内に出す。各省庁は、ほかの補助金への条件づけも検討する |
| 6条 | FCC議長 | 連邦の報告・開示の基準で、州法を専占するかを検討する手続きを始める(評価の公表から90日以内) |
| 7条 | FTC議長 | 政策声明を、90日以内に出す |
| 8条 | 大統領補佐官ら | 州法を専占する連邦の統一的な法律の案を作る(児童の安全、データセンターなどの基盤、州政府の調達・利用は専占の対象から外す方向) |
名指しされた州法は、コロラドの「アルゴリズムによる差別」を禁じる法律だけです。この文書は、私人に新しい権利を作るものではない、とも書かれています。
3. 2026年7月7日:FTCの政策声明の「案」。 連邦官報に載った、FTCの「AIの正確さの抑圧」についての声明案です。意見の募集は2026年7月31日までで、案の段階です。内容は次のとおりです。
- AI会社が、利用者の期待する出力から外れて、開示しない目的へ出力を誘導することは、FTC法5条(欺瞞的行為の禁止)に違反するおそれがある、という考え方です。
- 技術的な限界で起きる誤り(ハルシネーション)は、それだけでは5条の問題ではない、としています。
- 州法に従うためであっても、5条は適用される、とします。FTC法は州法を明示的には専占していないが、衝突する州法は専占されうる、という論理で、コロラド州法を例に挙げています。
大統領令の指示に沿った文書で、まだ確定ではありません。
州:4つの法律を、公式ページで読む
| 州(法律) | 型 | 日付 | 執行 |
|---|---|---|---|
| コロラド(SB 24-205 を作り直したSB 26-189) | AIによる差別の防止(大統領令が名指しした旧法)。新法の義務の中身は未確認 | 2026年5月署名、施行は2027年1月1日 | 州司法長官室が規則を策定中(執行の定めは、読んだページに記載なし) |
| カリフォルニア(SB 53) | フロンティアモデルの透明性と安全 | 2025年9月29日成立 | 州司法長官が民事罰 |
| テキサス(HB 149) | 禁止行為、政府の開示 | 2026年1月1日施行 | 州司法長官のみ |
| ニューヨーク(RAISE法) | フロンティアモデルの安全手順 | 2025年12月19日署名 | 州司法長官が民事訴訟 |
コロラド。 2024年の法律(SB 24-205)が、コロラドのAI法の基になっています。その施行日は、2025年8月28日署名のSB25B-004で、2026年6月30日に動かされています。その後、州司法長官室のページによると、2026年5月に署名されたSB 26-189が、元の規定を廃止して再制定し、新しいADMT法は2027年1月1日に施行されます。司法長官室は施行前に規則を作る必要があり、10月6日に中間案を出し、書面の意見は10月26日(山岳部標準時の23時59分)まで、公聴会は同日の10時です。ページには、新法の具体的な義務や罰則は書かれていません。消費者が、ADMTの使うデータの請求と訂正をできる、とだけあります。同じページに、チャットボット安全法(HB 26-1263)もあり、2027年1月1日施行です。
カリフォルニア。 知事室は、2025年9月29日にSB 53(Transparency in Frontier Artificial Intelligence Act)に署名したと発表しています。大規模なフロンティア開発者に、安全の枠組みの公開、重大な安全インシデントの報告、内部告発者の保護などを求めます。具体的な数字は、本文の転載で読みました(後ろの「くわしく」)。
テキサス。 HB 149の本文では、2026年1月1日施行です。自傷や犯罪を促す意図のAIなどが禁止され、政府機関には「AIと話している」という開示が求められます。執行は州司法長官のみで、私人は訴えられません。違反の通知から60日の是正期間があります。
ニューヨーク。 州上院のページでは、RAISE法が2025年12月19日に署名されています。大規模開発者に、公開する安全手順と、72時間以内のインシデント開示を求めます。
数字の一覧(本文で読んだ範囲)
カリフォルニア SB 53(成立版の本文転載を読みました)。 フロンティアモデルは、10の26乗を超える演算で訓練されたモデルです。大規模開発者は、前年の年間総収入が5億ドルを超える開発者です。重大な安全インシデントは、発見から15日以内に州の危機管理局(OES)に報告します。差し迫った死傷の危険があるときは24時間以内に、法執行などに開示します。民事罰は違反1件あたり最大100万ドルで、提訴できるのは州司法長官だけです。OESの年次報告は2027年1月1日に始まります(インシデント報告の義務そのものの開始日は、読んだ本文に書かれていません)。公共の計算基盤(CalCompute)は、予算措置があって初めて有効になります。
テキサス HB 149。 民事罰は、是正できる違反で1件1万〜1万2千ドル、是正できない違反で8万〜20万ドル、継続する違反で1日2千〜4万ドルです。NISTのAIリスク管理枠組み(生成AIプロファイル)などに実質的に従っていることは、条件つきで抗弁になります(内部の見直しで違反を見つけた場合など。条件の細部は本文で確かめてください)。州機関による免許の制裁では、金銭罰が最大10万ドルです。試験運用の「サンドボックス」は最長36か月です。州の苦情ポータルは2026年9月1日までに公開、とされています。
ニューヨーク RAISE法(A6453-B)。 大規模開発者は、フロンティアモデルを訓練し、計算に合計1億ドル超を使った者です。民事罰は、初回で最大1,000万ドル、再犯で最大3,000万ドルです。このページはB版の文面で、のちの修正があるかは確認できていません。施行日は、B版の文面では「成立から90日目」という定めで、具体的な日付はページにありません。
僕らの見立て:読み方の3つの軸
ここからは、読んだ文書をもとにした僕らの見立てで、公式の評価ではありません。
- 「大統領令」と「法律」を分けて読む。 大統領令は、政府の内部への指示です。州法の中身を変えるのは、司法省の訴訟、資金の条件、連邦議会の立法、といった別の手続きです。いま確認できているのは、指示と、FTCの声明案までです。
- 州法は「型」で読む。 差別を防ぐ型(コロラド)、高性能モデルの開発者に透明性を求める型(カリフォルニア、ニューヨーク)、禁止行為を列挙する型(テキサス)と、守る対象も、義務を負う相手も違います。州名だけで「米国のAI規制」とまとめると、中身を取り違えます。
- 日付が動く。 コロラドは、2026年6月30日から2027年1月1日の新法へ、作り直されました。「施行済み」と思っていたら変わっていた、ということが起きます。自社が関係しそうな州は、州の公式ページで直接確かめる必要があります。
日本の会社に直接関係するかは、事業の中身(米国で誰に何を提供するか)で変わります。この記事では判断していません。FTCの別の動きは、別の記事で扱っています。
気をつけること
- 僕らが確認できていないことが多くあります。商務長官の「州法の評価」が公表されたか、司法省が州を訴えたか、資金の通知が出たか、連邦議会に統一法案があるか。いずれも、読んだ政府ページからは確認できず、記事に書いていません。
- コロラドのSB 26-189は、州司法長官室のページの記述で読みました。州議会のページは「提出時」の表示で、本文や成立の記載を読めていません。義務の中身は、確認できていません。
- カリフォルニアSB 53は、州の公式ページが取得できず、本文の転載(LegiScan)と知事室の発表で読みました。全体の施行日は、読んだ範囲に書かれていません。ニューヨークも、具体的な施行日と、のちの修正の有無は確認できていません。
- ほかの州(ユタ、イリノイなど)や、州ごとのAI関連の個別法は読んでいません。この記事は米国全体の網羅ではありません。
- WebFetchは要約を返すため、文言は僕らが言い換えています。条文の細かな表現は、各出典の原文で確かめてください。
- 法律の話であり、助言ではありません。日付や内容は、確認日(2026年10月16日)時点です。
出典
- Ensuring a National Policy Framework for Artificial Intelligence(大統領令14365、ホワイトハウス、2025年12月11日、10月16日確認)
- Policy Statement Concerning the Suppression of Accuracy in Artificial Intelligence Systems(FTC、連邦官報、2026年7月7日、10月16日確認)
- America's AI Action Plan(ホワイトハウス、2025年7月、10月16日確認)
- Colorado AI Act ページ(コロラド州司法長官室、10月16日確認)
- Governor Newsom signs SB 53(カリフォルニア州知事室、2025年9月29日、10月16日確認)
- SB 53 成立版の本文(LegiScan による転載、10月16日確認)
- H.B. 149 Texas Responsible Artificial Intelligence Governance Act(テキサス州議会、10月16日確認)
- RAISE Act A6453-B(ニューヨーク州上院、10月16日確認)
更新履歴
- 2026年10月25日 書き方を直しました。
- 前:運営者が使っていないと読める書き方 → いま:「この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません」。公式の資料を読んでまとめた記事で、使い心地は書いていない、という意味に直した
