3行でいうと

  • 厚生労働省の令和8年版労働経済白書は、AIによる大きな雇用の減少が起きている証拠は、マクロ(全体の動き)では現時点で示されていない、と書いています。一方で、雇用が生まれることも失われることもありうる、としています。
  • ILOは、AIの影響を受けやすい職業(曝露度が高い職業)があっても、それは自動化を意味しない、と説明し、最も起こりやすい影響は仕事の変化(変容)だとしています。事務の仕事は影響を受けやすい職業群とされています。
  • 白書は、影響が職種や年齢で違うことを示しています。国によっては、影響を受けやすい職業で若い人の雇用が減ったという研究もあります。

この記事は、公式の文書を読んでまとめたものです。この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。「見立てです。」で始まる段落は僕らの考えで、資料に書かれていることとは分けて書きました。

先に結論

公式の資料から言えるのは、次の4つです。

  1. 日本の白書は、いまのところ大きな雇用の減少は示されていないとしています。 2026年9月29日に厚生労働省が公表した令和8年版の労働経済白書です。
  2. それは「心配いらない」という意味ではありません。 白書は、AIが雇用を生むことも失わせることもありうる、影響は職種によって違うかもしれない、と書いています。
  3. ILOの調査は「影響を受けやすい」と「仕事がなくなる」を分けています。 最も起こりやすい影響は、仕事の変化(変容)だ、という見方です。
  4. 将来の数字は、予測であって決まった未来ではありません。 世界経済フォーラムの数字は、会社への質問の答えをもとにした予測です。

たとえ話:職業は「作業の束」

僕らのたとえです。公式の文書にあるものではありません。

「事務員」という仕事を、1つのかたまりとして見ると、「AIが代わるか、代わらないか」の二択に見えます。でも実際の仕事は、データを入力する、書類を整える、電話に答える、人と調整する、など、いくつもの作業の束です。

ILOの調査は、この「束」を作業に分けて見ています。AIが手伝えそうな作業が多い職業ほど、影響を受けやすいと数えます。束の中の作業が一部、AIに回ったとき、その職業の人は、残った作業に時間を使うのか、人が減るのか、新しい作業が加わるのか。それは、調査の点数だけでは決まりません。白書も、その点を分けて書いています。

日本の白書が書いていること

令和8年版の労働経済白書は、第Ⅱ部の全体をAIにあてています。第Ⅱ部は3つの章で、AIは経済成長につながるか、AIは労働市場にどう影響するか、AI時代の人材育成の課題は何か、を扱います。

雇用は減っているのか

第2章の結論は、マクロでは、大きな雇用の減少が生じている証左は現時点で示されていない、です。白書は、2015年に野村総合研究所とオズボーンらが出した「労働人口の約49%が代替可能」という推計と、2025年の状況を比べ、一部の作業の自動化は進んだものの、大規模な代替は起きていない、と書いています。

日本の数字も出ています。AIが広がる前の期間(2016〜2019年)と、広がった期間(2022〜2025年)を比べた値です。

見るところ 広がる前 広がった期間
就業者数の伸び 1.4%増 0.5%増
労働投入量(働いた量の合計) 0.0%増 0.3%増
有効求人倍率(全体) 1.52倍 1.27倍
同・ブルーカラー 1.93倍 1.91倍
同・ホワイトカラー 0.97倍 0.93倍

白書は、これらから、AIによって労働需要全体が大きく鈍化している状況ではない、と評価しています。ただし、求人倍率が下がっている理由が何なのかは、僕らが読んだ範囲には書かれていません。AIのせいだとも、そうでないとも言えません。

職種ごとでは、有効求人倍率は、事務職が0.44倍と低く、管理・専門職が1.82倍と高い、と書かれています(期間の区切りは、読んだ範囲では確かめられていません)。

職種や年齢で違う

白書は、海外の先行研究も紹介しています。

国と調べ方で結果が違います。ここは、白書が引いている他の研究の紹介で、僕らは元の論文を読んでいません。

賃金と、これから

賃金の上昇率は、0.8%増から2.9%増になりました。白書は、これがAIの影響かは慎重に判断する必要があり、影響は遅れて現れる可能性もある、と留保しています。

人材については、経済産業省の2040年の推計を紹介しています。事務職は約440万人の余剰、AIやロボットを使いこなす人材は約340万人の不足、という見通しです。確定ではありません。

そのうえで白書は、職種に応じて、働く人の希望に合った転職や、学び直し(リスキリング)の支援が大事だとしています。また、特定の仕事に限らない力(メタスキル。論理的思考力、批判的思考力、コミュニケーション能力など)の重要性が高まる可能性がある、とも書いています。

白書が日本の「AIの使われ方」について書いていること

概要版には、次の記述があります(調査名が明記されていない図もあり、数字は参考です)。

  • 個人の生成AIの利用率は、日本が国際的に相対的に低い水準とされています(英国と米国はデータがなく除外)。
  • AIを使う労働者のうち、会社から訓練などを受けたと答えた割合は、日本26.7%で、OECD(経済協力開発機構)の36.8%より低い、と読み取れます。
  • メタスキルが高い人は賃金が高い傾向があります。ただし、原因と結果は特定できていない、と注記されています。

国際機関のILOが言っていること

ILOは2023年と2025年に、生成AIの影響を受けやすい職業を調べた論文を出しています。

「曝露」は、失業ではありません。 2023年の論文は、「曝露」を、GPT-4のようなツールが職業の作業に影響しうる可能性、と説明しています。自動化される、という意味ではない、とも書いています。

事務の仕事は、影響を受けやすい。 2023年の論文では、事務職の作業の約24%が高い曝露、約58%が中程度とされています。ほかの職業群で、高い曝露の作業は1〜4%でした。2025年の更新版も、事務職の曝露がもっとも高いとしています。

2025年の更新版(2025年5月20日公表)の数字。

結論は「変わる」。 ILOの2025年の更新版は、最も起こりやすい影響は仕事の変化(変容)だと書いています。2023年の論文は、自動化より、人を補助する使い方のほうが起こりやすく、仕事は変わっても残る、としています。また、結果は政策や管理のしかたで変わる、と述べています。

ILOの2023年の論文の読み方

この論文は、GPT-4に各作業の点(0〜1)を付けさせて、職業ごとの影響を受けやすさを見ています。高所得国の条件を仮定し、会社がAIを入れるまでの壁を考えに入れていないため、結果は上限の見積もりとされています。発行日はページから確認できていません。

将来の予測は、どう読むか

世界経済フォーラムの2025年1月の報告は、1,000社を超える雇用主(1,400万人を超える人を雇用)への調査にもとづき、2030年までの予測を出しています。

この数字には、次の注意が要ります。雇用主の予測の延長であること。86%は、AIだけでなく情報処理の進歩を合わせた数字であること。雇用主への調査なので、働く人への直接の調査ではないこと(これは僕らの読み取りです)。予測であって、確定した数字ではありません。

誤解されやすい点

「影響を受けやすい職業は、なくなる職業」 ILOは、曝露を失業と同じとは考えていません。言っているのは「仕事の中身が変わる可能性が高い」です。

「データで見て、何も起きていない」 白書が言うのは、マクロでは現時点で大きな減少の証拠がない、です。職種や年齢ごとの細かい動きでは、創出と喪失の両方がありうる、とも書いています。

「予測の数字は、決まった未来」 2040年や2030年の数字は、推計の方法と前提で変わります。

今日からできること

どれも、資料に書かれていることを土台にした、僕らの整理です。

やってはいけないこと。

気をつけること

出典

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