3行でいうと

  • 法務省は、AIによる契約書の審査支援について、ひな形やチェックリストと一致・類似する部分を、個別の修正を加えずに表示するにとどまるなら、通常は弁護士法72条の問題にならず、「個別の事案に応じた法的リスクや具体的な修正案を示す」と問題になり得る、と整理しています。ただし、これはサービスを提供する側の話です。
  • OpenAIとAnthropicの利用方針は、個別の法的助言には資格のある人の関与を求める趣旨で書かれています。Anthropicの文書は、一般的な法律情報の説明や社内の下書き・分析は、その要件の対象外としています。
  • 実際の線引きは、「自分の会社の契約を自分で理解するための下調べ」までをAIに任せ、「署名するかどうかの判断」と「相手との争いが見えている案件」は人に回す、というのが僕らの見立てです。

この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。この記事は、法務省、個人情報保護委員会、OpenAI、Anthropic、LegalOn Technologiesの公式ページを、2026年10月16日に読み、10月22日に読み直してまとめたものです。法律の助言ではありません。個別の案件は、弁護士などの専門家に相談してください。僕らの考えは「見立て」と書いた部分に分けました。

先に結論

契約書のチェックを、3つの仕事に分ける

法務省の文書は、契約書にかかわる業務を「作成」「審査」「管理」の3つに分けています。ここでは「審査」を、さらに細かく見ます。

仕事の中身 法務省の文書での扱い 使う側の見立て
ひな形やチェックリストと一致・類似する部分を、個別の修正なしに表示するにとどまる 通常は該当しないとされる例 下調べに向く
一般的な条項例や解説を、個別の修正なしに示す 通常は該当しないとされる例 勉強用には向く
個別の事案に応じて、法的リスクの有無や程度を示す 該当し得るとされる例 判断の材料にとどめる
個別の事情に応じた具体的な修正案を示す 該当し得るとされる例 提案として読み、人が決める

表の2列目は、法務省の文書に書かれていることです。3列目は僕らの見立てです。

法務省の文書が言っていること、言っていないこと

法務省大臣官房司法法制部の文書(令和5年8月)の中心は、弁護士法72条に違反するかどうかを、3つの要件で見るという整理です。

この3つのいずれかに当たらなければ違反しない、とされています。3つすべてに当たる場合でも、例外があります。弁護士や弁護士法人にサービスを提供し、その弁護士が結果を踏まえて自分で契約書を精査し、必要なら自分で直す使い方なら、通常は違反しない、という整理です。生成AIを使うサービスも、原則としてこの枠組みで考えるとされています。最終的な判断は裁判所が行う、とも書かれています。

ここで大切なのは、この文書がサービスを提供する側の整理だという点です。題名も「サービスの提供と弁護士法72条との関係」です。自分の会社の契約書を、自分で理解するためにAIに読ませる人が、この文書でどう扱われるかは、読んだ範囲では確認できていません。したがって、この文書から言えるのは、「AIが契約書を読むことがすべて違法」という話ではなく、「個別の事案への当てはめを、報酬を得て、事件性のある案件で行うと問題になり得る」という線がある、というところまでです。

法務省の文書:3つの仕事(作成・審査・管理)の整理

「作成支援」は、利用者の自由な入力に応じて、個別の経緯や事情を法的に処理して具体的な契約書を出すと、該当し得るとされています。入力や選択で、登録済みのひな形を選んで出すだけなら、通常は該当しないとされます。

「審査支援」は、個別の事案に応じた法的リスクの有無や程度、具体的な修正案を示すと該当し得ます。ひな形との相違部分を、字句の意味内容とは無関係に表示するにとどまる、ひな形やチェックリストと一致・類似する部分を個別の修正なしに表示するにとどまる、一般的な条項例や解説を個別の修正なしに表示するにとどまる、といった使い方は通常該当しないとされます。

「管理支援」は、管理している契約の内容に応じて、個別の法的リスクを随時自動で示すと該当し得ます。契約の当事者、期日、更新、金額などによる分類・表示は、通常該当しないとされます。

「事件性」は、契約の目的、当事者の関係、契約に至る経緯や背景などの事情を個別に考慮して判断される、とあります。紛争が起きたあとに裁判外で和解契約を結ぶ場合は事件性が認められ得る例、特段の紛争がなく従前と同様の物品を調達する継続的な取引は事件性を認め難い例として挙げられています。

各社の公式方針を並べる

汎用のAIを作っている会社は、利用方針で、法律の分野をどう書いているでしょうか。

文書 確認した日付 法律について書かれていること
OpenAI Usage policies 発効日 2026年11月20日(10月22日に読んだ表示。前の版は2025年10月29日) 免許が要る「個別の助言」を他者に提供するAIツールを作る・提供することは、免許を持つ専門家が適切に関与しない限り禁止(この条項に法律・医療の例示は書かれていない)。法律を含む重要分野での重大な行為を、人の確認なしに自動化することも禁止
Anthropic Usage Policy ページ表示の発効日 2026年11月12日 個人の法的権利・義務や、特定の案件でどうすべきかの助言、本人が署名・提出する法的文書の作成は「高リスク」。資格のある人が実質的に確認して変更でき、AIを使ったことを相手に明示することが必要。除外は、個人の事情に当てはめない一般的な法律情報の説明、最終的な推奨として届けない社内の起案・調査・分析
LegalOn(専用の契約審査) 10月22日に読んだトップページ 弁護士監修のAIが契約書のリスクを洗い出し、立場に合わせた修正案を出すと説明。主な対象は弁護士と法務チーム。弁護士法との関係は、そのページには書かれていない

AnthropicとOpenAIの文書の発効日は、どちらも確認日(2026年10月22日)より後の日付です(Anthropicは11月12日、OpenAIは11月20日)。現行版なのか、予告された版なのかは、読んだ範囲では分かりません。OpenAIのページは、2025年10月29日の版を「前の版」として案内していました。

この2社の文書は、サービスを提供する側や、助言を届ける側に向けた決まりという読み方が素直です。社員が自社の契約書を下調べすることを直接禁じる文は、読んだ範囲では見つけていません。ただし、これも見立てです。社内で使う場合は、所属先の規程が先です。

3つの道具を、何で選ぶか

契約書のチェックに使える道具を、大きく3つに分けて比べます。分け方は僕らの整理で、公式文書にある分類ではありません。

道具 向く使い方 気をつける点
汎用のAIチャット(ChatGPT、Claudeなど) 条文の要約、用語の言い換え、チェックリストとの照合 事実と違うことを自信ありげに書く(ハルシネーション)ことがある。入力した契約書の扱いは、プランと設定で違う
専用の契約審査サービス 自社の審査基準に沿った、同じ形式での審査 料金や契約条件は、読んだページでは分からない。主な対象が法務の専門家のものもある
弁護士への依頼 署名前の最終確認、争いのある案件、大きな金額や長期の取引 費用と時間がかかる。この記事では、料金を調べていない

選ぶ基準は、「間違えたときの被害の大きさ」と「争いの有無」だと思います。軽い秘密保持契約ならAIで要約してから人が読む。大きな取引や揉めている相手なら、最初から人に回す。これが見立てです。

汎用AIに読ませるときの、確かめ方

AnthropicのAPI文書には、文書を読ませるときにハルシネーションを減らす方法が3つ書かれています。契約書を読ませるときにも使える考え方だと思います。

  1. 「分からない」と言ってよい、と先に伝える。 文書に書かれていないことは推測せず、「書かれていない」と答えるよう頼みます。
  2. 先に原文の該当箇所を抜き出させる。 長い文書では、まず条文をそのまま抜き出させ、その抜き出しだけを根拠に答えさせます。
  3. 主張ごとに根拠の条文を付けさせる。 根拠が見つからない主張は取り下げさせます。

同じ文書には、こうした方法は幻覚を大きく減らすが、無くすわけではなく、重要な情報は必ず検証すること、とあります。AIが示した「危ない条項」の指摘は、原文の条文番号で人が読み返す必要があります。

頼み方の例(見立て)

次のような頼み方を考えました。公式文書の方法を、契約書の下調べに当てはめたこの記事の例で、動作は確かめていません。

「以下の契約書を読んで、次の順に答えてください。(1) 各条の見出しと、一文の要約。(2) 支払い、解除、損害賠償、秘密保持、期間と更新に当たる条を、原文のまま抜き出す。(3) 抜き出した条文だけを根拠に、分からない点を質問の形で挙げる。契約書に書かれていないことは推測せず、『書かれていない』と答えてください。法律上の可否の判断はしないでください。」

答えを「判断」ではなく「確認すべき点の一覧」にしておくと、人に回すときの質問メモとして使えます。

契約書を入れる前に:データの扱いを確かめる

契約書には、取引先の社名、金額、担当者の個人名が入っています。入れる前に、データの扱いを確かめます。

個人情報保護委員会は、令和5年6月2日の注意喚起で、個人情報取扱事業者に次のことを求めています。個人情報を含む入力が、利用目的の達成に必要な範囲に収まっているか確認すること。本人の同意なしに個人データを入力し、それが回答の出力以外の目的で扱われる場合は、個人情報保護法に違反するおそれがあること。そのため、入力の前に、提供事業者が個人データを機械学習に使わないことを確認すること、です。

OpenAIの公式ページでは、次のように書かれています。

アップロードしたファイルの扱いは、Data Controls FAQには書かれていませんでした。契約書をファイルで入れる場合は、別に確かめる必要があります。取引先との契約に秘密保持の条項(秘密保持契約)がある場合は、その契約が、AIサービスへの入力を許しているかも、AIの設定より先に確認する点です。

弁護士に回す線引き(見立てです)

ここからは、公式の説明を読んだうえでの僕らの見立てです。法律の助言ではありません。

気をつけること

出典

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