3行でいうと
- 入力した内容は、サービスによっては、AIを良くするための学習に使われることがあります。個人情報保護委員会もそう明記しています。
- 学習に使われなくても、入力した内容は一定期間サービス側に保存されます。会話の一部を人間が確認するサービスもあります。
- 設定で変えられることもありますが、すでに学習に使われた分は、あとから取り戻せません。
- 基本は「入れる前に立ち止まる」です。人を特定できる情報、会社の秘密、パスワードなどは、本当に必要か確かめます。
この記事は、公式・一次資料(官公庁の原典、法律の条文、AI各社の公式ヘルプ)を読んでまとめたものです。この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。法律の話は、条文や公式資料の紹介です。自分や会社のケースが法律に当たるかどうかの個別の判断は、弁護士など専門家に相談してください。
先に結論
公式資料を読んで言えることは、次の3つです。
- 入力した内容は、サービスによっては、AIを良くするための学習に使われることがあります。日本の個人情報保護委員会(以下、委員会)も、そう明記しています。
- 学習に使われなくても、入力した内容は一定期間、サービス側に保存されます。会話の一部を人間が確認するサービスもあります。
- 設定で変えられることもありますが、すでに学習に使われた分は、あとから取り戻せません。
だから、基本の考え方は「入れる前に立ち止まる」です。とくに次のものは、入れる前に、本当に必要か、設定を確かめたか、を自分に聞いてください。
- 他人の名前、住所、電話番号、病気の情報など、人を特定できる情報
- 会社や取引先の秘密
- パスワード、認証コード、APIキー(アプリがAIを使うための合鍵)
何が問題なのか
具体的な場面で考えます。
- 友人の相談メールを、そのまま貼って「返事を考えて」と頼む。
- 取引先の担当者の名前と連絡先が入った名簿を貼って「表に整理して」と頼む。
- 診断書の文面を貼って「やさしく説明して」と頼む。
どれも便利ですが、貼った文章は、AIの会社のコンピューターに送られます。送られたあとにどう扱われるかは、サービスと契約のプランで違います。公式資料から、次の3つの経路に分けて確かめました。
経路1:学習に使われる
委員会が2023年6月2日に出した注意喚起には、一般の利用者向けにこう書かれています(言い換えです)。入力された個人情報は、生成AIの機械学習に使われることがあります。そうなると、他の情報と統計的に結びついたうえで、正確な内容や不正確な内容として、AIの出力に出てくるおそれがあります。だから個人情報を入れるときは、そのリスクを踏まえて適切に判断すること、と書かれています。
「学習」とは、AIが大量の文章から言葉のパターンを覚えて、賢くなる作業のことです。自分の入力が学習に使われると、AI会社が作る次のAIの材料になり得ます。
経路2:履歴として保存される
学習に使われない設定にしても、会話はしばらく残ることがあります。たとえばGoogleのGeminiの公式ヘルプには、履歴の保存設定(Keep Activity)をオフにしても、会話は最長72時間、アカウントに結びついて保存される、と書かれています。
また、同じGoogleの公式ページには、会話の一部を人間の確認者(外部の委託先を含む)が見て、品質や安全を確かめる、とあります。「確認者に見られたくない機密情報は入れないでください」という趣旨の注意も書かれています。確認された会話は最長3年保存され、利用者が履歴を消してもそれは消えない、と書かれています。
経路3:間違った内容が出てくる
委員会の注意喚起は、もうひとつ指摘しています。生成AIは、確率にもとづいて自然な文章を作るので、答えに不正確な個人情報が混ざることがあります。AIが作った「その人についての文章」を、そのまま信じて使わないでください。
法律では、何と書かれているのか
ここからは、条文と委員会の資料の紹介です。個別の判断は、専門家にお願いします。
言葉の意味
e-Govの法令検索で読んだ「個人情報の保護に関する法律」(個人情報保護法)には、次の定義があります(言い換えです)。
- 個人情報:生きている個人についての情報で、氏名や生年月日などによって特定の個人を識別できるもの。ほかの情報と簡単に照らし合わせて、特定の個人が分かるものも含みます。(第2条第1項)
- 要配慮個人情報:人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪の被害にあった事実など、不当な差別や偏見が生まれないよう、とくに配慮が必要なものとして政令で定める記述が含まれる個人情報。(第2条第3項)
要配慮個人情報を、事業者が本人の同意なしに取得することは、原則として禁止されています(第20条第2項)。
事業者や役所が、AIに個人情報を入れるとき
委員会の注意喚起(2023年6月2日)には、個人情報を事業として扱う会社などに向けて、次の注意が書かれています(言い換えです)。
- 個人情報を含む文章をAIに入れるときは、あらかじめ決めた利用目的の範囲内かどうかを、よく確かめる。
- 本人の同意を得ずに、個人データ(検索できるように整理された個人情報)を入れて、それが「答えを出す」以外の目的で使われるなら、法律に違反するおそれがある。だから、AIの提供会社が、そのデータを機械学習に使わないかどうかなどを、十分に確かめる。
委員会のリーフレット(2023年)には、さらに具体的な説明があります。AIの提供会社が、入力された情報を自社のAIの学習データに使うことにしている場合、利用者が個人データを入れると、それは利用者から提供会社への「第三者への提供」になる。その場合は、原則として、あらかじめ本人の同意が必要になる(第27条、第28条)。そのため、利用規約を確認してから使うように、とあります。
つまり、会社で顧客名簿をAIに貼る前には、そのAIが入力を学習に使うのかどうかを確かめる必要がある、という注意です。
個人の利用者について
注意喚起には、一般の利用者向けとして3点が書かれています。個人情報を入れるときのリスクを踏まえて判断すること、答えに不正確な個人情報が含まれ得ること、そして、サービスの利用規約やプライバシーポリシーを確認して、入力する内容に合わせて判断すること、です。
一方、個人が家族や友人についての情報を書き込む場合に、法律上どう扱われるかは、僕らが読んだ資料では確認できていません。読んだ資料の規律は、主に個人情報取扱事業者と行政機関等に向けたものです。
AI会社の公式ヘルプでの扱い(個人向けプラン)
学習の扱いは、サービスと契約で違います。公式ヘルプで確かめた範囲を表にします。設定の手順は、同じ連載の「学習に使われないようにする設定」の記事にまとめています。
| サービス | 個人向けプランの入力の扱い(公式の記載) | 確認元 |
|---|---|---|
| ChatGPT(OpenAI) | 個人向けの内容は、学習に使われることがある。設定でオフにできる。ただし、評価ボタン(良い・悪い)を押した会話は、オフにしても学習に使われ得る。Temporary Chatは学習に使われないが、安全のため最長30日保持され得る | OpenAI Help(学習への利用、データ管理)の2ページ |
| Claude(Anthropic) | 個人向けは、設定でオン・オフを選ぶ。オンなら最長5年、匿名化して保持され得る。オフにしても、安全機能が検知した会話は別の目的で使われ得る。Incognito chat(履歴に残らないチャット)は学習に使われない | Claudeのプライバシーセンターの複数ページ |
| Gemini(Google) | 履歴の保存(Keep Activity)がオンだと、会話が改善に使われ得る。オフでも最長72時間は保存される。人間の確認を受けた分は最長3年 | Gemini アプリのヘルプ、プライバシーハブ |
どのサービスでも、会社や学校のアカウント、API、法人向けプランは別のルールです。業務で使う場合は、別の記事(会社の資料をAIに入れる前に確認すること)を見てください。
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今日からできる対策
どれも、公式資料に書かれたことを土台にした、僕らの整理です。
- 入力する前に、「この文章に、人を特定できる情報が入っていないか」を見る。委員会のリーフレットは、利用規約を確認してから使うよう勧めています。
- 学習に使われる設定をオフにする。手順は別記事に書きました。
- 履歴を残したくない話題は、一時的なチャット(ChatGPTのTemporary Chat、ClaudeのIncognito chat、GeminiのTemporary chat)を使う。ただし、どれも数日から30日ほど、安全のために保存されることがあります。
- 業務では、会社が許可したサービス、会社の契約で使うプランだけを使う。
- AIが出した「人についての文章」は、そのまま使わず、元の情報で確かめる。
- 一度送った内容は、履歴を消しても、すでに学習に使われた分は戻りません。Anthropicのヘルプにも、すでに始まった学習や、学習し終えたモデルに含まれたデータは残る、と書かれています。
見立てです。迷ったときに役立つのは、「伏せて入れる」ことだと思います。名前を「Aさん」に、会社名を「X社」に、住所を削って、本当に必要な部分だけで相談する。AIに頼みたいのは文章の整え方であって、個人を特定する部分は要らないことが多いからです。ただし、どこまで伏せれば個人を特定できなくなるかは、状況で変わります。法律の上で十分かどうかは、僕らには判断できません。
見立てです。次の順で考えると、迷いが減ると思います。
- パスワード、認証コード、APIキーは、どんな設定でも入れない。入れる理由がありません。
- 他人の個人情報、とくに病気や犯罪に関わるものは、入れない。入れるなら、伏せる。
- 自分自身の情報は、設定と保存期間を確かめたうえで、自分で決める。
- 会社の情報は、会社の決まりに従う。
気をつけること
- この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません。この記事は、公式・一次資料を読んでまとめたものです。
- 委員会の注意喚起とリーフレットは2023年のものです。2026年10月23日に、委員会のサイトで読み直したところ、個人情報保護法を改正する法律は2026年7月10日に成立し、7月17日に公布された、とあります。施行時期は、読んだ範囲のページでは見つかりませんでした(政令や規則などの検討を進めている、とだけあります)。改正の内容も、僕らは読めていません。最新のルールは、委員会の公式ページで確認してください。
- 条文の番号や内容は、e-Govの法令検索で2026年10月8日に取得したものです。改正で変わる可能性があります。
- 各社のヘルプの日付表示は、ページによって「更新日」「何日前」などまちまちです。保存期間などの数字は変わることがあります。
- ClaudeのIncognito chat(履歴に残らないチャット)の保存期間は、公式ヘルプに「既定は30日」と書かれていますが、僕らが確認できたのは1ページだけです。
- 設定画面や機能名は、公式の英語のページに書かれた名前です。日本語の画面では確かめていません。
- 法律や契約の個別の判断は、弁護士など専門家に相談してください。
出典
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(個人情報保護委員会、2026年10月23日確認)
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(令和5年6月2日、公表資料PDF)(個人情報保護委員会、2026年10月23日確認)
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起 -個人情報がAIの学習データとして利用されていませんか?-(リーフレット)(個人情報保護委員会、2026年10月23日確認)
- 令和8年 改正個人情報保護法について(個人情報保護委員会、2026年10月23日確認)
- 個人情報の保護に関する法律(e-Gov法令検索、2026年10月8日確認)
- Data controls FAQ(OpenAI Help、2026年10月23日確認)
- How your data is used to improve model performance(OpenAI Help、2026年10月23日確認)
- How do you use personal data in model training?(Claude Privacy Center、2026年10月23日確認)
- How do I change my model improvement privacy settings?(Claude Privacy Center、2026年10月23日確認)
- Use incognito chats(Claude Help Center、2026年10月23日確認)
- Gemini Apps Privacy Hub(Gemini Apps Help、2026年10月23日確認)
- Manage & delete your activity in Gemini Apps(Gemini Apps Help、2026年10月23日確認)
- Temporary Chats and personalization(Google、The Keyword、2026年10月23日確認)
更新履歴
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2026年10月25日 書き方を直しました。
- 前:運営者が使っていないと読める書き方 → いま:「この記事は、実際に使って確かめた記録ではありません」。公式の資料を読んでまとめた記事で、使い心地は書いていない、という意味に直した
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2026年10月23日 公式の資料を読み直して、次の点を直しました。
- 前:改正法は2026年7月に成立し、7月17日に公布された → いま:成立は7月10日、公布は7月17日と書きました
- 前:改正法の内容と施行時期は読めていない → いま:施行時期は読んだページに見つからなかった、内容は読めていないと書きました
- 一部の出典は読めなかったため、その部分は前のままです。
